「萩原朔太郎詩集 Ⅴ 遺稿詩集」(小学館版)「第一(「愛憐詩篇」時代)」 街道 / 幻の「街道」の初期形か?
街 道
道路は樹木を凍えしむ
うらがれとがれ
りんりんと梢に高く光れる針葉
しんに針葉の並木は哀しく
下に道路はうちふるへ
くねりつつ白くつらなり遠きに山脈の浮べるあり
背をまろくして街道を流れゆく見ゆ
いま眞珠のくだのごときもの
しきりに路上に燃えたちしが
ややありて光なき日輪に及ばんとす
この低き屋並をこえ
道路のうへにまたがり
いと高きにありてめんめんと愁ふるもの
絕えず愁ふるものをきく
そはぷろぺらのうなりのごとく
氷山のひび入るごとくにもきこゆれど
そのひびき遠き道路に及ばねば
尙も夕日の中にむらがり
あまたうないらは哀しげに遊び居るなり
はやたそがれ近き冬の日の道路に
らくだに似たる物象の長き列は近づきぬ
見よいまもきのふも
街道はくねりつつえいゑんの遠きにはす
[やぶちゃん注:底本では制作年は未詳(記載なし)で、出典を『ノオト』とする。筑摩版全集では「習作集第九巻(愛憐詩篇ノート)」にかなり似た「街道」がある。以下に示す。誤字・錯字・歴史的仮名遣の誤りは総てママである。
道路街道
道路は樹木を凍えしむ
うらがれとがれ
りんりんと梢に高く光れる針葉
しんに針葉の並木はさびしく
下に道路はうちふるへ
ふとくしねりつつ遠きにはす。
遠きに高原の山脈ゆめと浮べるあり
旅びとゝむれくらく流れいで
音もなくうこのことろをすぎ行く見ゆ。
いま眞珠のくだの如きもの
しきりに路上にもえ立ちしが
やゝありて光なき日輪に及ばんとすびなんとす。
この低き屋並を越え
樹木をこえ
いと高きにありてめんめんと愁ふるひいづるも
そはぷろべらのうなりの如く
氷山のひゞいる如くにもきこゑゆれ共
その響、遠き地上に及ばねば
いまも夕日の中にむらがり居て
あまたうなひらは悲しげに遊び居るなり。
みよかゝる日の街道に
わが■■憂愁ははてしなき軌道を步む。みいづ。
「■■」判読不能の抹消字である。思うに、これは本篇を更に推敲したもののように感じられる。最早、現存しない幻の「街道」の初期形と言うべきか。]
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