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2021/10/02

曲亭馬琴「兎園小説」(正編) 狐囑の幸

 

[やぶちゃん注:同じく文宝堂発表。標題は「きつねつきのさひはひ」と訓ずるか。同じく物語なので、段落を成形した。]

 

   ○狐囑の幸

 文化六巳年の冬、加賀の備後守殿の留守居役に、出淵忠左衞門といへる人あり。

[やぶちゃん注:「文化六巳年」一八〇九年。但し、同年は陰暦十一月二十五日で一八一〇年になる。

「加賀の備後守殿」不詳。この時の加賀藩・大聖寺藩・富山藩の藩主を総て調べたが、「備後守」はいない。さすれば、江戸藩邸も特定出来ない。

「出淵忠左衞門」「聖徳大学・短期大学部短期大学部 総合文化学科」公式サイト内の本話の現代語訳「江戸の珍談・奇談(22)-1」では、姓を『いずぶち』(いづぶち)と読んでいる。]]

 ある夜の夢に、一疋の狐來りて、忠左衞門の前に、ひざまづき、いふやう、

「わたくし事は、本鄕四丁目椛屋の裏なる稻荷の忰なれども、いさゝか、親のこゝろにたがひたる事のありて、此善[やぶちゃん注:「この、よき」。]親のもとへは、かへられず。居所もこれなく、いと難氣に候へば、何とも申しかねたる事には候へども、召しつかひ給ふ下女を、かし給へ。しばしのうち、此事をねがひ奉る。程なく、友達のものゝ「わび」[やぶちゃん注:「詫び言(ごと)」を入れること。]にて、宿[やぶちゃん注:実家の稲荷を指す。]へかへるべければ、それまでの間、ひとへに願ひさぶらふ。けして、なやませも、いたすまじ。又、奉公の間も、かゝすまじければ、許容し給へ。」

と、なげく。

[やぶちゃん注:「本鄕四丁目」ここ(グーグル・マップ・データ)。樋口一葉・石川啄木所縁の地であり、「こゝろ」の「先生」の学生時代の下宿家の谷を隔てた東真向いでもある。

「椛屋」「かうぢや」。

「此善」「この、よき」。

「わび」「詫び言(ごと)」を入れること。

「宿」実家の稲荷を指す。]

 忠左衞門、夢に、こゝろに不便に思ひ、

「なやます事もなくば、かしつかはすべし。」

といふに、狐、こよなう、よろこぶと見て、さめぬ。

 忠左衞門、

『いとも、ふしぎなる夢を、みし事よ。』

と思ひつゝ、翌朝、起き出でゝ、下女をみれども、常にかはりし事もなかりけるが、晝頃より、俄に、此下女、はたらき出だして、水を汲み、眞木をわり、米をとぎ、飯をたき、常には出來かねし針わざまで、なす。

 每日、かくのごとく、一人にて、五人前ほどのわざをなし、あるひは晴天にても、

「けふは何時より、雨ふり出だすべし。」

とて、主人の他出の節は、雨具を用意させ、

「後ほどは。何方より、客人、ありなり。」

など、そのいふ事、いさゝか違ふことなく、その外、萬事、此女のいふごとくにて、大に家内の益になることのみなれば、

「何とぞいつまでも、此きつね、立ち退かざるやうにしたきものなり。」

とて、其ころ、あるじ、直の物がたりなるよし、此あるじと懇意なる五祐といふもの、物がたりき。

 文政乙酉中秋朔於文寶堂  南窓食山人誌

[やぶちゃん注:「南窓食山人」この文宝堂は薬種商人であるが、詳細な事績は伝わらない。但し、本書の巻頭の大槻氏の解説にある通り、御家人太田南畝蜀山人の二代目を継いでいる。蜀山人の狂歌記載に「食山人」の表記のあるものがあるようである。]

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