曲亭馬琴「兎園小説」(正編) 若鷹
○若 鷹
「群書類從」、「定家卿庭三百首」、
あまたとやふませて見ばやいまだにも古木居に似る秋の若鷹
此四の句、予が藏本には、「ふるとび」に似るとあり。これは「古鳶」に作るかた、勝れたり。「古木居」にては、歌の心、何とも聞えず。すべて、大鷹の今年生ひの若鷹は、形容、さながら、鳶にかはらざるものなれども、一とや經れば、毛色、淺黃になりて、夫より、鳥屋を出づる每に、次第に、うるはしくなるものなり。歌の心も、『「あまたとや」をかへたらば、毛も、かはり、うるはしかるべきに、今は鳶に似て、きたなげなり。』とよめるなり。此四句、「とび」と假名にて、ありしを、「こひ」とよみて、やがて「木居」と書きたるなるべし。
乙酉臘月朔日 龍珠しるす
[やぶちゃん注:それぞれの博物誌は私の「和漢三才圖會卷第四十四 山禽類 鷹(たか)」及び「和漢三才圖會卷第四十四 山禽類 鳶(とび) (トビ)」を参照されたい。
「とや」は「鳥屋」「塒」で、一般的には、「鳥を飼って入れておく小屋」で、鶏や種々の鳥を飼う小屋をも指すが、特に「鷹を飼育するための小屋」を限定的に言うこともある。さらに、別に「鷹の羽が夏の末に抜け落ちて、冬になって生え整うこと」を「とや」とも呼ぶ。この間は鷹は鳥小屋に籠るからである。さらに、その回数によって鷹の年齢を数え、三歳或いは四歳以上の鷹、又は、四歳の秋から五歳までの鷹を特に「とや」と称するともされる。ここでは「あまたとやふませて見ばや」というところは、最後の「とや」の意味を嗅がせておいて、『三年以上も「とや」でこの鷹を飼って、どう変わるかを見てみたい。』と言っていると考えてよかろう。
「古木居」は「ふるこゐ」。「木居」は狩りに用いる鷹が木にとまっていること、または、その木を指す。ここは後者。筆者の言うように、確かにここは「古鳶」の方がよかろう。]
« 曲亭馬琴「兎園小説」(正編) 「參考太平記」年歷不合 | トップページ | 「萩原朔太郎詩集 Ⅴ 遺稿詩集」(小学館版)「第三(『月に吠える』時代)」 土地を掘るひと »