「萩原朔太郎詩集 Ⅴ 遺稿詩集」(小学館版)「第一(「愛憐詩篇」時代)」 銀貨を放つ人
銀貨を放つ人
夕日にそむきたる
いと丈高き
この人の手をすべり
砂のごとくに流れ落つる銀貨
銀貨はかぎりなくうづもりて落ち
その高き人の膝(ひざ)に及ばんとす
光のちらちらとかがやける
かかる地上に伸長する銀貨の堆積
あやしき貨幣の表には
名も知らぬ草花の姿を刻しあり
その花よりくしき精氣をはらみ
くるめく波のしぶき四方に香氣をふきあげしぞ
みよや この人のかなしみ裂くるが如く
さばかり掌をあげしにより
空に 山に むらがりいで
一時に燕鳥の列を
さんさんと銀色の雨つらなめて
いなごのごとく遠きにかけ去り行く見ゆ
[やぶちゃん注:底本では制作年は未詳(記載なし)で、出典を『ノオト』とする。筑摩版全集では、「原稿散逸詩篇」にあるが、それは本底本に先行する小学館版「萩原朔太郎全集遺稿上」から転載されたもので、既に原稿は失われているようである。]
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