萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 遺稿詩篇 (無題)(夕日の松に首を縊(つ)る) / 詩集「月に吠える」所収の「天上縊死」の筑摩版全集不掲載の草稿
○
夕日の松に首を縊(つ)る
懺悔をはれる人ひとり
銀のアルバムを手にさげしが
頸に靑き紐をまきつけ
あはれあはれ
天上の松に首を縊らんと
懺悔おはれる人ひとり
はや瞳はしびれ
眼はめしひ
松にかかれば
身肉たちどころに電光發し
あはれあはれ
夕日さんさんたる梢につられ
この哀しめる
罪びとの手はさげられぬ。
[やぶちゃん注:この無題詩としては、筑摩版全集の索引に出ないので、試みに、ネットで「萩原朔太郎 夕日の松に首を」のフレーズで検索を掛けたところ――哀しいというか、嬉しいというか――私の九年前の二〇一三年の投稿記事がトップに出できたのだった。「月に吠える」の「天上縊死」(リンク先は二〇一八年に私がものした同詩集の正規表現版の当該詩篇)草稿群を電子化したものの一つ、「(無題) 萩原朔太郎 (「天上縊死」草稿3)」であった。そこに推敲されたものが示してあり、その抹消部を除去したものも電子化したが、それは本篇と酷似はする。異同は、
本篇七行目「人ひとり」→「ひとひとり」
本篇八行目「はや瞳はしびれ」→「はや肢體はしだれ」
本篇最終行「罪びとの手はさげられぬ。」→「罪びとの手はさげられぬ、」
だけである。しかし、八行目の違いは有意であって、誤判読の可能性もあり得ないから、これは私が仮に『「天上縊死」草稿3)』と呼んだものの失われた別稿と採るべきものであろう。]