萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 拾遺詩篇 夜景
夜 景
高い家根の上で猫が寢てゐる
猫の尻尾から月が顏を出し
月が靑白い眼鏡をかけて見てゐる
だが泥棒はそれを知らないから
近所の屋根へひよつこりとび出し
なにかまつくろの衣裳をきこんで
煙突の窓から忍びこもうとするところ。
[やぶちゃん注:底本の「詩作品發表年譜」によれば、初出誌を大正四(一九一五)年三月発行の『卓上噴水』とする。筑摩書房版全集でも「拾遺詩篇」に載り、同雑誌の同年三月号とする。その初出を示す。
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夜景
高い家根の上で猫が寢てゐる
猫の尻尾から月が顏を出し
月が靑白い眼鏡をかけて見てゐる
だが泥棒はそれを知らないから
近所の家根へひよつこりとび出し
なにかまつくろの衣裝をきこんで
煙突の窓から忍びこもうとするところ。
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異同は「屋根」が「家根」で、「衣裳」が「衣裝」であるだけであり、これは小学館版編者の消毒と考えてよい。]
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