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2021/11/28

萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 遺稿詩篇 絕望の足 /筑摩版全集所収の「絕望の足」とは異なる別稿

 

  絕 望 の 足

 

魚のやうに空氣をもとめて

よつぱらつて町をあるいてゐる私の足です

東京市中の堀割から浮びあがるところの足です

さびしき足

さびしき足

よろよろと道に倒れる人足の足

それよりももつと甚だしくよごれた絕望の足。

 

その足うらより月はのぼりて

家々の家根はいちめんに黑し

あらゆるものを失ひ

あらゆる幸福のまぼろしをたづねて

東京市中に徘徊する足

よごれはてた病氣の足

さびしい人格の足、

ひとりものの異性に飢えたる足

よつぱらつて堀ばたを步く足

ああ、心中になにをもとめんとて

かくもみづからをはづかしむる日なるか

よろよろとしてもたれる電信柱

はげしき啜りなきをこらへるこころ

ながく道路にたほれむとする絕望の足である。

 

[やぶちゃん注:筑摩書房版全集には、「拾遺詩篇」に同題の詩が載るが(初出は大正六(一九一七)年六月号『秀才文壇』)、明らかに有意な異同がある。以下に示す。太字は底本では傍点「ヽ」。後ろから二行目の「こらえる」はママ。

   *

 

 絕望の足

 

魚のやうに空氣をもとめて、

よつぱらつて町をあるいてゐる私の足です、

東京市中の堀割から浮びあがるところの足です、

さびしき足、

さびしき足、

よろよろと道に倒れる人足の足、

それよりももつと甚だしくよごれた絶望の足、

あらゆるものをうしなひ、

あらゆる幸福のまぼろしをたづねて、

東京市中を徘徊するよひどれの足、

よごれはてたる病氣の足、

さびしい人格の足、

ひとりものの異性に飢ゑたる足、

よつぱらつて堀ばたをあるく足、

ああ、こころの中になにをもとめんとて、

かくもみづからをはづかしむる日なるか、

よろよろとしてもたるる電信柱、

はげしきすすりなきをこらえるこころ、

ああ、ながく道路に倒れむとする絕望の足です。

 

   *

これは最早、同一決定稿でないことは明白である。]

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