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2021/11/23

萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 拾遺詩篇 受難日 / 筑摩版「拾遺詩篇」所収の「受難日」の草稿

 

  受 難 日

 

受難の日はいたる

主は遠き水上(みなかみ)にありて

氷のうへよりあまた光る十字すべらせ

女はみな街路に裸形となり

その素肌は黃金の林立する柱と化せり

見よやわが十指は凝結し

背にくりいむは瀧とながるるごとし。

しきりに掌(て)をもつて金屬の女を硏ぎ

胴體をもつてちひさなる十字を追へば

樹木はいつせいに𢌞轉し

都會は左にはげしく傾倒す。

ああ十字疾行する街路のうへ

そのするどさに日輪もさけびくるめき

群集を越へて落しきたるを感じ

いのり齒をくひしめ

受難の日のくれがた

われつひに蛇のごとくなりて絕息す。

 

[やぶちゃん注:太字は底本では傍点「ヽ」。「越へて」はママ。底本の「詩作品發表年譜」によれば、初出誌を大正三年七月発行の『創作』とする。筑摩書房版全集でも「拾遺詩篇」に載り、同雑誌の同年七月号とする。但し、その初出とは微妙に異なる箇所がある。以下に示す。太字は同前。「研」「ちいさなる」はママ。

   *

 

 受難日

 

受難の日はいたる

主は遠き水上(みなかみ)にありて

氷のうへよりあまた光る十字すべらせ

女はみな街路に裸形となり

その素肌は黃金の林立する柱と化せり。

見よやわが十指は晶結し

背にくりいむは瀧とながるゝごとし

しきりに掌(て)をもつて金屬の女を研ぎ

胴體をもつてちいさなる十字を追へば

樹木はいつさいに𢌞轉し

都は左にはげしく傾倒す。

あゝ十字疾行する街路のうへ

そのするどさに日輪もさけびくるめき

群集を越へて落(おと)しきたるを感じ

いのり齒をくひしめ

受難の日のひくれがた

われつひに蛇のごとくなりて絕息す。

 

   *

「晶結」「いつさいに」「都」「ひくれがた」は誤判読のしようがないもので、決定稿の前の草稿である可能性が高い。]

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