萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 「愛憐詩篇」拾遺 街道
街 道
俥にゆられつつ
夕ぐれ時の街道を
新町街道を急ぐ女よ
眞赤な夕日は山の上
白粉のゑりがさむしかろ
今宵
おん身の上に幸あれかし。
[やぶちゃん注:「ゑり」はママ。「新町街道」「新町」は群馬県多野郡にあった町(現在は高崎市の一部。但し、飛地)。中山道の宿場新町宿が置かれ、宿場町として栄えた(ウィキの「新町(群馬県)」に拠る)。
本篇は筑摩版全集では「拾遺詩篇」に載り、初出誌があって、大正三(一九一四)年三月二十四日附『上毛新聞』である。以下に初出形を示す。
*
街道
俥にゆられつゝ
夕ぐれ時の街道を
新町街道を急ぐ女よ
眞赤な夕日は山の上
白粉のゑりがさむしかろ
今宵
おん身の上に幸あれかし
(一九一三、一〇、二〇)
*
編者注があり、『作者がこの作品全體に斜線を引いた雜誌が殘されている』とある。ということは、この詩篇は再度、別な雑誌に転載されたことを示すとしか読めない。まあ、ともかくも気持ちでは、朔太郎としては発表後に結果してボツにしたい作品だったということであろう。また、表記違いの同詩篇草稿(但し、標題は「偶成」)が「習作集第九卷(愛憐詩篇ノート)」に以下のように出る。ルビの読み「かいどう」や「おしろひ」はママ。
*
偶成
俥にゆられつゝ
夕ぐれ時の街道(かいどう)を
高崎新町街道を急ぐ女よ
眞赤な夕日は山のうへ
おしろひの襟がさむしかろ
今宵
おん身の上に幸(さち)あれかし
(一九一三、一〇、二〇)
*]
« 萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 「愛憐詩篇」拾遺 あきらめ | トップページ | 曲亭馬琴「兎園小説」(正編) 破風山の龜松が孝勇 »