萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 遺稿詩篇 (無題)(つかれきつた魂がねむつてゐる) / 前掲詩篇「ある場所に眠る」の別稿と推定される
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つかれきつた魂がねむつてゐる
みどりのこんもりとした木立ちのかげに
わたしの靑ざめた手足がすやすやと眠つてゐる
手の上にもちひさな蟲けらが這ひあがつて
しづかに私のたましひをみまもつてゐるのである
私の心はしづかに眠る
さうしてかなしい生活の夢をみつづける
ああけふもけふとて酒場をもとめ
酒場の椅子にたましひをくさらした
さらに多くの憂鬱なる神經が
酒場の椅子にべつたりとねばりついた。
*前作と重複する部分あるも、作者がいづれの作品を採らうとしたかは分らぬ。
[やぶちゃん注:「前作」はこの直前に掲げられてある「ある場所に眠る」。穏当な見解で、或いは、「ある場所に眠る」と一緒に或いは連続した原稿に並べられて記されてあったものかも知れない。実際、底本では、数行しか残っていないのに、そこから本篇を始めている。本シリーズの詩篇の組版のセオリーは、独立した一篇一篇は、見開き右ページ行頭から開始、或いは、同仕儀の左ページ開始であるからである。則ち、ここで小学館編者は特異的に、草稿原稿を連続して並べて組んでいるのである。最後に。本篇は筑摩書房版全集では『草稿詩篇「原稿散逸詩篇」』にあるが、小学館版「萩原朔太郞全集」元版の「別册 遺稿上卷」からの転載であり、既に原稿が失われていることが判る。]
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