萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 自我主義者
自我主義者
『われに背逆(さから)ふものは邪宗の鬼
地獄の底に陷して硫黄の火を嘗めしめん
われに順ふものは宗敎(おしへ)のいとし子
無上の榮光と久遠の歡樂に耽らしめん』
かくエホバのたまへり
げに神の聖旨はわがこころ
神の意思は我れの意思
よしやわが信條は神の敎則(おきて)に違ふとも
われもまた我れの神なり
何のはばかるところもあらじかし
さらば我が友エホバよ
偉大なるエゴイストの神よ
我等盃を合せて友誼をむすぴ
かつ人の子のためにことぶきをなさん。
[やぶちゃん注:読み「おしへ」はママ。本篇は筑摩書房版全集では『草稿詩篇「原稿散逸詩篇」』にあるが、これもまた、小学館版「萩原朔太郞全集」元版の「別册 遺稿上卷」からの転載であり、既に原稿が失われていることが判る。]