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2021/11/24

萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 拾遺詩篇 月蝕皆既 / 筑摩版「拾遺詩篇」所収の「月蝕皆既」の別稿

 

  月 蝕 皆 既

 

みなそこに魚の哀傷

われに淚のいちじるく

きみはきみとて

ましろき乳房をぬらさんとする

このひごろつかふことなく

ひさしくわれら靈智にひたる

すでに長き祈禱ををへ

いまみれば月も皆既なり

魚の性はせんちめんたる

みよ、うみはみどりをたたへ

肉靑らみ

いんいんとして二人あひ抱く

齒と齒と合し

手は手をつがひ

魚の浪におよぎて

よるの海に靑き死の光れるを見る。

 

[やぶちゃん注:底本の「詩作品發表年譜」によれば、初出誌を大正三年十一月発行の『詩歌』とする。筑摩書房版全集でも「拾遺詩篇」に載り、同雑誌の同年十一月号とする。但し、その初出とは明らかに異なる箇所がある。以下に示す。「いちゞるく」「たゝえ」はママ。

   *

 

 月蝕皆既

 

みなそこに魚の哀傷、

われに淚のいちゞるく、

きみはきみとて、

ましろき乳房をぬらさむとする。

この日ごろつかふことなく、

ひさしくわれら靈智にひたる、

すでに長き祈禱ををへ、

いまみれば月も皆既なり、

魚の性はせんちめんたる、

みよ、うみはみどりをたゝえ、

肉靑らみ、

いんいんとして二人あひ抱く、

齒と齒と合し、

手は手をつがひ、

もつれつゝからまりにつゝ、

いんよくきはまり、

魚の浪におよぎて、

よるの海に靑き死の光れるをみる。

 

   *

句読点の有無は無視しても、コーダの高まりを演出する「もつれつゝからまりにつゝ、」「いんよくきはまり、」が本篇にないのは、明確に別稿であることを意味する。]

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