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2021/11/05

「萩原朔太郎詩集 Ⅴ 遺稿詩集」(小学館版)「第三(『月に吠える』時代)」 螢狩

 

  螢   狩

 

愛妹のえりくびから一疋

瘋癲病院の窓から一疋

けちえんのつかあなから一疋

いえすの素足から一疋

魚の背筋から一疋

殺人者の心臟から一疋

おれの磨いた手から一疋

遠い夜の世界で螢を一疋。

 

[やぶちゃん注:太字「いえす」は底本では傍点「ヽ」(以下も同前)。また、初出を大正四年一月発行の『異端』とする。筑摩版全集でも、「拾遺詩篇」に同雑誌の大正四年一月号を初出とする。以下に初出を示す。歴史的仮名遣の誤りはママ。

 

 螢狩

 

愛妹(いもうと)のえりくびから一疋、

嵐癩病院の窓から一疋、

血(けち)ゑんのつかあなから一疋、

いえすの素足から一疋、

魚の脊筋から一疋、

殺人者の心臟から一疋、

おれの磨いた手から一疋、

遠い夜の世界で螢を一疋。

 

なお、同全集の「未發表詩篇」には同題の「螢狩 ――愛人室生犀星に」という散文詩形の詩篇があるが(リンク先は私の古いブログの電子化注)、この完成形は、見た感じは、連関のない同題異詩のように見えはする。しかし、実は上記の全集で、本篇も、その頃に一度、電子化注してあり、その際に、『草稿詩篇「拾遺詩篇」』に載る如何にも本篇に似た「螢狩」の草稿も電子化注しているのだが、その中の五行目に、

 

室生→犀星エス樣の素足から一疋

 

という表現が出現しており、取り消されているものの、実は「エス」=「イエス」は初案では

 

室生の素足から一疋

 

或るいは、

 

犀星の素足から一疋

 

の案を措定していたことが判り、実は本篇が同題の「螢狩 ――愛人室生犀星に」と深い関係性を持った詩篇であることが判るのである。

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