萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 遺稿詩篇 月光の夜に見たる家屋の印象
月光の夜に見たる家屋の印象
内部に病人がある
そのはあるみにうむ製
窓は*らず三角形
うすでの雪がふり
さくらぎ靑き花つけ
いたいたしいがらすかけにて床はいちめん
貸間の二階に金屬の椅子があり
家根の上に黑い猫がねむつて居る。
[やぶちゃん注:「*」は編者注がないが、判読不能字であろう。筑摩書房版全集では「未發表詩篇」に、同題の草稿が載る。以下に示す。表記不全(不審な「決」、「古るき」、「からす」、「からんど」)は総てママ。
*
月夜に見たる光の夜に見たる家屋の印象
内部に病人がある
その家の壁はあるみにうむでつくられ製
窓にさくらの花がさき
窗は決らず三角形
窓戶にもうすでの破雪がふり
さくらぎ靑き花つけ
その 家 二階に古るき額あり
疾患
いたいたしいからすかけにて庭床はいちめん
からんど貸間の二階に一脚の金屬の椅子があり
家根の上に黑い猫がねむつて居る
*
編者注があり、本篇は「馬の眼の印象」と同一原稿用紙に書かれている旨の記載がある。筑摩書房版全集校訂本文では「決らず」を「必らず」とする。本篇の「*」であり、確かにこの処理は、意味上はしっくりと肯ずることが出来る。抹消部の後ろから二行目の「からんど」は「か」に濁点を忘れたもので、「がらんどう」に同じ(その縮約表現として「がらんど」は辞書に載る)。
本篇は、四行目「うすでの雪がふり」の頭の欠損が気になるが、二行目の「*」が「決」ならば、敢えて判読不能としたことが納得できることと、四行目は、或いは「戶と」が判読し難く、或いは上の削除線が下まで伸びているように錯覚されたものと考えると、同一原稿である可能性が高いと考えられる。]
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