萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 拾遺詩篇 疾患光路 / 筑摩版「拾遺詩篇」所収の「疾患光路」の別稿
疾 患 光 路
我れのゆく路
菊を捧げてあゆむ路
いつしん供養
にくしんに血をしたたらすの路
肉さかな、きやべつの路
電車軌道のみちもせに
犬、畜生をして純銀たらしむる
疾患せんちめんたる夕ぐれの路
ああ 素つぱだかの聖者の路。
[やぶちゃん注:底本の「詩作品發表年譜」によれば、大正三(一九一四)年十月の作とし、初出誌を大正四年一月発行の『水甕』とする。筑摩書房版全集でも「拾遺詩篇」に載り、同雑誌の同年一月号とする。但し、その初出とは微妙に異なる箇所がある。以下に示す。
*
疾患光路
我れのゆく路、
菊を捧げてあゆむ路、
いつしん供養、
にくしんに血をしたたらすの路、
肉さかな、きやべつの路
邪淫の路、
電車軌道のみちもせに、
犬、畜生をして純銀たらしむる、
疾患せんちめんたる夕ぐれの路、
ああ、素つぱだかの聖者の路、
――十月作――
*
本篇には「邪淫の路(、)」の一行がない。されば、別稿ととるべきであろう。
なお、筑摩版全集の『草稿詩篇「拾遺詩篇」』には、以下の本篇の草稿「道路」が載る。「したゝす」はママ。
*
眞實 行 道路
道路
すはだしでどこへ行くのか
我れのゆくみち
菊をさゝげてあゆむみち
禮拜いつしん供養
にくしんに血をしたゝすの路
肉さかなきやべつのみち
淫亂邪淫の路、
ともがら
みな一列竝行佛身子のみち
齒痛のみち
道路ぴかぴか
電車軌道のみち
いなづまを
犬畜生をして淚を疾患純銀たらしむる
疾患せんちめんたるのみち、
ああ、すつぱだかのわれのみち聖者のみち。
*
後に編者注があり、『本稿の餘白に、次の記載があるが、どの行も抹消されている。』として(「淚」は全抹消に先だって抹消されているので、かく示した)、
*
いたい、いたい
みろ、やせぎすの狼だ、
淚いたむゆびさきを日輪をさす
いたい、いたむ
いたむ
いたむ、いたむ、
*
とあるとあり、さらに『本原稿には、末尾に執筆年月日を「一九一四、一〇」と注記したものがある。』とある。]
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