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2021/11/20

萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 『蝶を夢む』拾遺 先祖

 

  先  祖

 

先祖の幽靈は、ながい尻尾を曳きずつて通る。

 

[やぶちゃん注:筑摩版全集では「未發表詩篇」に以下のように載る。

   *

 

 先祖

 

先祖の幽靈は、ながい尻尾を曳きずつて通る。

 

   *

これに筑摩版編集者が、『本篇は未發表詩篇』の無題の『「(このなんて納まり返つた人たちだ)」と關係がある。』とあるので、そちらも掲げる。全集では本篇の二つ前に載る。かなり長いものである。表記は総てママである。太字は底本では傍点「ヽ」。

   *

 

 

 このなんで納まり返つた人たちだ

みろ御先祖たち の行列だ

このなんて靑い顏の人たちだ

このなんて意地の惡い眼付の人たちだ、

ながいながい單調の行列から

(みんな)舌をたらして行く

あるひとの如きは實に尻尾の尖をひきづつて居る、

しんにたいていいやらしいたましいらうまちずむの、薄い 紙製の肉體けいれんから

紙製の薄い肉體をびくびくさせて

手の光る

光る

光る

光る

白臘模型の御先祖たち

君たち一代のいやらしい秘密から

遠い「過去」の螢光墓穴から

その通る、長たらしいぶらつとほうむから

出てくる、出てくる、出てくる、影と夜の幽靈//夜の陰忍なる食慾また逃げる餌物らのいんきくさい足音から

[やぶちゃん注:私が打った「*」及び「//」で挟んだ部分は並存を示す。次も同じ。]

懺悔の そのまたいんきくさい餌物の逃げる足音/逃げまわる飢物らのいんきくさい足音から

あなた方の腐蝕した靈魂の槪念から銀の階段から

なにかもおれは知つて居る、

それ 君等いつさいの秘密を永遠の子孫 遠い 孫兒につたへるために知つて居る

┃お氣の毒だがおれは生きて居た、

やい、ひつこめ、 連中、 ひつこめろ、白い御先祖たち

 ↕

┃御氣毒だが……

ひつこめろ、白い御先祖たち

[やぶちゃん注:行空けは都合で施した。行頭の「┃」(底本では連続した横線)と「↕」は私が附したもので、この前後の二行自体が並置されてあることを示すものである。但し、並置したものの、双方にその後に削除を加えてしまった結果、「お氣の毒だが」と「御氣毒だが……」の並置並存となっているに過ぎないということになる。]

あまりに御先祖、もうその馬鹿々々しい行列をやめてくれ

ひつこめろ

犬蓄生のごとくにも見えるから

御先祖、見つともない尻尾だけはかくしておくれ

白い霧の遠方

白いさ霧の 遠方 世界でも

齒が光る、その 手がいたむ のか いたむ、白い

ああしんしづ  哀しげなる 哀しくに淚がながれる

なんたる陰氣な

しんじつ哀しげに見える御先祖たち

手が疾む

疾患らうまちずむの御先祖たち、

 

   *

また、これには、同全集の『草稿詩篇「未發表詩篇」』に以下の草稿(中途で切れている)もある。

   *

 

  

この、なんて靑い顏をした人たちだ

この、なんて意地の惡い眼付をした人たちだ、

長い單調な行列から

舌をたしてらしてゆく

尻尾のさきしきづりながらつ居る、

あるものゝごとき實に白いいやらしいらうまぢずむの薄い肉體

それをびくびくさせて

手の光るそれでも

光る

光る

光る手のかげに顏を出す先祖ら

白臘の人形の模型の先祖ら

みんなおれ私は知つて居る

君たち一代の祕密いやらしい祕密から

なんでも君たちの遠い世界の歷史墓穴から

一切のその長たらしいぶらつとほうむから

出てくる、出てくる、

また きみたちの額に刻まれた 晴衣の一件からいんきな足音から

その 疾患の怖ろしい 陰氣くさい

あなた方の腐蝕した靈魂の所在までから

なにかも私は明らかに知つて居る、

それを永遠の子孫につたへるために

 あなた方の疾患原理をつたへるために

そのために御氣毒だが私は生きて居るのだ、

やいひつこめ先祖ら

白い御先祖の顏たち

犬のやうな

馬鹿らしい行列をやめてくれ

 

   *

 なお、本底本の次の詩篇「手」の後に附された小学館編集者の注も参照のこと。]

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