萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 斷片 (無題)(この、なんて靑い顏をした人たちだ) / 筑摩版全集の『草稿詩篇「未發表詩篇」』所収の「○(このなんて納まり返つた人たちだ)」の草稿とするものと同一原稿と推定
○
この、なんて靑い顏をした人たちだ
なんて意地の惡い眼付をした人たちだ
長い單調な行列から
舌をたらしてゆく
尻尾にさきをひきづつて居るあるもののごとき實に
いやらしいらうまちずむの薄い肉體
それをびくびくさせて
手の光る
光る
光る
光る
白臘の模型先祖ら
みんな私は知つて居る
君たち一代のいやらしい秘密から
遠い世界の墓穴から
その長たらしいぷらつとほうむから
出てくる 出てくる
君たちのいんきな足音から
あなた方の腐蝕した靈魂の所在から
なにもかも私は知つて居る
それを永遠の子孫につたへるために
あなた方の疾患原理をつたへるために
お氣の毒だが私は生きてゐるのだ
やい、ひつこめ
白い先祖たち
馬鹿らしい行列をやめてくれ
[やぶちゃん注:「白臘」はママ(「白蠟」の誤記)。本篇は断片ではあるが、相当にソリッドな草稿(完全草稿の前方三分の二)である。しかも、この無題詩の完全草稿「(このなんで納まり返つた人たちだ)」は、実は、私が既に、先行する「萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 『蝶を夢む』拾遺 先祖」の注で筑摩版全集の「未發表詩篇」から引用して電子化している。そちらを参照されたいが、筑摩版全集には、別に『草稿詩篇「未發表詩篇」』の中に、その「(このなんで納まり返つた人たちだ)」の草稿とする『(本篇原稿二種四枚)』とするものがあり、それが見事に本篇とほぼ完全に一致するのである。以下に示す。「ぶらつとほうむ」を始めとして表記は総てママ。
*
○
この、何なんて靑い顏をした人たちだ
まこの、なんて意地の惡い眼付をした人たちだ
長い單調な行列から
舌をたしてらしてゆく
尻尾のさきをしきづりながらつ居る
あるものゝごとき實に白いいやらしいらうまぢずむの薄い肉體
それをびくびくさせて
手の光るそれでも
光る
光る
光る手のかげに顏を出す先祖ら
白臘人形のの模型先祖ら
みんなおれ私は知つて居るよ
君たち一代の祕密いやらしい祕密をから
なんでも君たちの遠い世界の歷史墓穴から
一切のその長いたらしいぶらつとほうむから
出てくる、出てくる、
またきみたちの額に刻まれた 晴衣の一件から、いんきな足音から
その 疾患の怖ろしい 陰氣くさい
あなたの方の腐蝕した靈魂の所在までから
なにもかも私は明らかに知つて居る、
それを永遠の子孫につたへるために
あなた方の疾患原理をつたへるために
そのためにお氣の毒だが私は生きて居るのだ、
やいひつこめ先祖ら
白い御先祖の顏たち
犬のやうな
馬鹿らしい行列をやめてくれ
*原稿用紙が破れているので、このあとは不明。
*
削除部分の「晴衣の一件から、」というのは意味不明である。以下に、整序したものを示す。「ぶらつとほうむ」は流石に訂正した。
*
○
この、なんて靑い顏をした人たちだ
この、なんて意地の惡い眼付をした人たちだ
長い單調な行列から
舌をたらしてゆく
尻尾のさきをしきづつ居る[やぶちゃん注:「ひきづつて」の訛りと脱字。]
あるものゝごとき實にいやらしいらうまぢずむの薄い肉體
それをびくびくさせて
手の光る
光る
光る
光る
白臘の模型先祖ら
みんな私は知つて居る
君たち一代のいやらしい祕密から
遠い世界の墓穴から
その長たらしいぷらつとほうむから
出てくる、出てくる、
きみたちのいんきな足音から
あなた方の腐蝕した靈魂の所在から
なにもかも私は知つて居る、
それを永遠の子孫につたへるために
あなた方の疾患原理をつたへるために
お氣の毒だが私は生きて居るのだ、
やいひつこめ
白い御先祖たち
馬鹿らしい行列をやめてくれ
*
細部に異同がありはするが、重要な特異的なメルクマールの箇所が、これ、ほぼ完全に一致していることから、最早、同一原稿としか思われない。]
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