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2021/12/26

萩原朔太郞詩集「蝶を夢む」正規表現版 松葉に光る 詩集後篇(標題)・自注・「狼」

 

松葉に光る    詩集後篇

 

[やぶちゃん注:パート標題。その裏に以下の自注。]

 

 

この章に集めた詩は、「月に吠える」の前半にある「天上縊死」「竹と哀傷」等の作と同時代のもので、私の詩風としては極めて初期のものに屬する。すべて「月に吠える」前派の傾向と見られたい。但し内八篇は同じ詩集から再錄した。

 

 

   

 

見よ

來る

遠くよりして疾行するものは銀の狼

その毛には電光を植ゑ

いちねん牙を硏ぎ

遠くよりしも疾行す。

ああ狼のきたるにより

われはいたく怖れかなしむ

われはわれの肉身の裂かれ鋼鐵(はがね)となる薄暮をおそる

きけ淺草寺(せんさうじ)の鐘いんいんと鳴りやまず

そぞろにわれは畜生の肢體をおそる

怖れつねにかくるるにより

なんぴとも素足をみず

されば都にわれの過ぎ來し方を知らず

かくしもおとろへしけふの姿にも

狼は飢ゑ牙をとぎて來れるなり。

ああわれはおそれかなしむ

まことに混鬧の都にありて

すさまじき金屬の

疾行する狼の跫音(あのと)をおそる。

 

[やぶちゃん注:標題の「狼」の字に限っては(本文は普通に「狼」。底本画像を参照されたい)、(つくり)「良」の一画目が点ではなく、「一」の字体。グリフウィキのこれ

「怖れつねにかくるるにより」は「そぞろにわれは畜生の肢體をおそ」れているが、その「怖れ」は「つねに」私自身が「かくるる」ように殊更に振る舞っている「により」(から)「なんぴとも素足をみず」(何人(なんぴと)も私の顫える素足を見ることはない)という意であろう。かなり捩じれた朔太郎好みの病的な表現である。

「混鬧」「こんどう」と読み、「人で溢れかえって騒々しい様子」の意。

 初出は大正四(一九一五)年一月号『詩歌』。初出形を以下に示す。歴史的仮名遣の誤り及び誤植(ルビ「はねが」や「嗚りやまず」の「嗚」)は総てママ。

   *

 

   

 

見よ、

來る、

遠くよりして疾行するものは銀の狼、

その毛には電光を植え、

いちねん牙を研ぎ

遠くよりしも疾行す、

あゝ、狼のきたるにより、

われはいたく怖れかなしむ、

われはわれの肉身の裂かれ鋼鐵(はねが)となる薄暮を怖る、

きけ、淺草寺の夕ぐれの鐘嗚りやまず、

そゞろに我は畜生の肢體をおそる

怖れつねにかくるゝにより、

なんぴとも素足を見ず、

されば都にわれの過ぎ來し方を知らず、

かくしもおとろへしけふの姿にも、

狼は飢え牙をとぎて來れるなり、

あゝわれは怖れかなしむ、

まことに混鬧の都にありて、

すさまじき金屬の、

疾行する狼の跫音(あのと)を怖る。

               ――その二――

 

   *

「その二」とあるが、筑摩版全集の「草稿詩篇 蝶に夢む」に本篇の草稿として『五種七枚』とあることから、その草稿の中の「二」番目の決定稿という意味であろうか。「その一」がこれ以前に発表された形跡はない。以下にそこに挙げられている二篇(他は載らない)の草稿を以下に示す。行頭にある数字は朔太郎が打ったもの。歴史的仮名遣の誤りや誤字と思われるものは総てママ。

   *

 

 感傷→念願

 祈願

 

夕ぐれかけていつさんにきた れる るものは

1もとめきたるあくなきものは乞食→蓄生狼なり

2その毛に、はがね電光をうえ、牙を硏ぎ、

3われを喰みわれを殺す、

4もとめえざるものは乞食なりああわれはおもう

いのれしからずんば 死がいか 乞食の手より

5われはわれの肉身のはがねとなる夕をおそる

そのすぎこし方を知らず

6きけ夕の鐘鳴りやまず

きけ上野東叡山のきけ淺草の夕の寺の鐘こんこんと鳴りもやまず

7そゞろに我は蓄生の心をおそる

8そのさればわがすぎこし方を知らず

9なんぴとも素足を見ず

われはわれの天上にあり

蓄生の心を知らず

乞食の心を感ぜず

いはんや

せんちめんたるの子

合掌していんよくの路をたどる

10かくしもおとろへはてし我の心に瞳に

11狼は牙をとぎて來れるなり、

12まことにわれはおそる

13遠くより都にありてすさまじきどんよくの靈感のけものをおそる、

 

 

  

 

狼きたる

ああみよ狼きたる、

この薄暮靈感のあひだ、薄暮閉光のあひだ

遠くよりましぐらに疾行する

みよ遠くよりして疾行するものは靈感の銀の狼なり、

その毛には電光をうゑ

いちねん牙をとぎ

われを喰みわれを殺さむとす

われああ狼のちかづくにより

われはいたくおそれ哀しむ、

われはわれの肉身の裂かれ鋼鐵となる薄暮をおそる、

きけ上野淺草寺の夕べゆうぐれの鐘鳴りやまず

そゞろに我は蓄生の肢體をおそる

おそれつねにのがるかくるゝにより

なんぴとも素足をみず

されば都に我のすぎこし方を知らず

かなしみかくしもおとろへし今日の瞳にも姿にも

狼は尙牙をとぎて來れるなり

ああわれはおそれ哀しむ、

まことに雜鬧の都にありて

すさまじき靈惑のけものをおそる。

 

   *

後半の無題詩には編者注があり、『欄外に「玻璃」と附記されている。』とある。「雜鬧」は「雑踏」に同じで、決定稿の「混鬧」に同じ。]

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