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2021/12/24

萩原朔太郞詩集「蝶を夢む」正規表現版 湼槃

 

   湼  槃

 

花ざかりなる菩提樹の下

密林の影のふかいところで

かのひとの思惟(おもひ)にうかぶ

理性の、幻想の、情感の、いとも美しい神祕をおもふ。

 

涅槃は熱病の夜あけにしらむ

靑白い月の光のやうだ

憂鬱なる 憂鬱なる

あまりに憂鬱なる厭世思想の

否定の、絕望の、惱みの樹蔭にただよふ靜かな月影

哀傷の雲間にうつる合歡の花だ。

 

涅槃は熱帶の夜明けにひらく

巨大の美しい蓮華の花か

ふしぎな幻想のまらりや熱か

わたしは宗敎の祕密をおそれる

ああかの神祕なるひとつのいめえぢ――「美しき死」への誘惑。

 

涅槃は媚藥の夢にもよほす

ふしぎな淫慾の悶えのやうで

それらのなまめかしい救世(くぜ)の情緖は

春の夜に聽く笛のやうだ。

 

花ざかりなる菩提樹の下

密林の影のふかいところで

かのひとの思惟(おもひ)にうかぶ

理性の、幻想の、情感の、いとも美しい神祕をおもふ。

 

[やぶちゃん注:太字は底本では傍点「ヽ」。標題「湼槃」のみ、この字体(本文内の三ヶ所のそれは「涅槃」)。「湼」は「涅」の異体字。流石は本家新潮社! 同社の昭和一四(一九三九)年刊の新潮文庫「萩原朔太郞詩集」でも標題はちゃんと「湼槃」の表記となっている。初出は大正一一(一九二二)年九月号『太陽』。以下に示す。こちらの標題は「涅」の字体。太字は同前。

   *

 

 湼槃

 

    原始佛敎における涅槃の觀念は、
     この世に於ての最も美しい思想である。
              ショーペンハウエル

 

花ざかりなる菩提樹の下

密林の影のふかいところで

かのひとの思惟(おもひ)に浮ぶ

理性の、幻想の、情感の、いとも美しい神祕をおもふ。

 

涅槃は熱病の夜あけにしらむ

靑白い月の光のやうだ

憂欝なる 憂欝なる

あまりに憂欝なる厭世思想の

否定の、絕望の、惱みの樹蔭にただよふ靜かな月影

哀傷の雲間にうつる合歡(ねむ)の花だ。

 

涅槃は熱帶の夜明けにひらく

巨大の美しい蓮華の花か

ふしぎな幻想のまらりや熱か

わたしは宗敎の祕密をおそれる

ああかの神祕なるひとつの心像(いめえぢ)――美しき死への誘惑。

 

涅槃は媚藥の夢にもよほす

ふしぎな淫慾の悶えのやうで

それらのなまめかしい救世(くぜ)の情緖は

春の夜に聽く笛のやうだ。

 

花ざかりなる菩提樹の下

密林の影のふかいところで

かのひとの思惟(おもひ)にうかぶ

理性の、幻想の、情感の、いとも美しい神祕をおもふ。

 

   *]

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