萩原朔太郞詩集「蝶を夢む」正規表現版 蟾蜍
蟾 蜍
雨景の中で
ぽうとふくらむ蟾蜍
へんに膨大なる夢の中で
お前の思想は白くけぶる。
雨景の中で
ぽうと呼吸(いき)をすひこむ靈魂
妙に幽明な宇宙の中で
一つの時間は消抹され
一つの空間は擴大する。
[やぶちゃん注:「蟾蜍」は以下の初出でルビが振られる通り、「ひきがへる」と読む(音は「センジヨ(センジョ)」)。種や博物誌は私の「和漢三才圖會卷第五十四 濕生類 蟾蜍(ひきがへる)」を参照されたい。
初出は大正一一(一九二二)年一月号『日本詩人』。以下に示す。「澎大」「すいこむ」はママ。
*
蟾蜍
雨景の中で
ぽーとふくらむ蟾蜍(ひきがへる)
へんに澎大なる夢の中で
お前の思想は白くけぶる。
雨景の中で
ぽーと呼吸(いき)をすいこむ靈魂
妙に幽冥な宇宙の中で
お前の時間は消抹され
お前の空間は擴大する。
*]