萩原朔太郞詩集「蝶を夢む」正規表現版 榛名富士
榛 名 富 士
その絕頂(いたゞき)を光らしめ
とがれる松を光らしめ
峰に粉雪けぶる日も
松に花鳥をつけしめよ
ふるさとの山遠遠(とほどほ)に
くろずむごとく凍る日に
天景をさへぬきんでて
利根川の上(へ)に光らしめ
祈るがごとく光らしめ。
――鄕土風物詩――
[やぶちゃん注:初出は大正四(一九一五)年一月号『水甕』。以下に示す。「くろづむ」はママ。
*
榛名富士
――鄕土風物詩――
その絕頂(いたゞき)を光らしめ、
とがれる松を光らしめ、
峯に粉雪けぶる日も
松に花鳥をつけしめよ
ふるさとの山、遠遠(とほどほ)に、
くろづむごとく凍る日に、
天景をさへぬきん出て、
利根川の上(へ)に光らしめ、
いのるがごとく光らしめ。
――十一月作――
*
本篇には草稿がある。以下に示す。行頭の数字は朔太郎自身が打ったもの。誤字はママ。
*
榛名富士
(上野三岳ノ一、形樣富士山ニ似タルヲ
以テコノ名アリ、)
1その絕頂を光らしめ
2とがれる峯松を光らしめ
3おも峯に粉ゆきふるときも→けぶる日も→ふれる日もけぶる日も
4松に花鳥をつけしめよ
利根 さ靑に利根をはしらせて
けぶるがごとく凍る日に
遠山脈の 消ゆる日に 凍る日に
5ふるさとかみつけの山遠々に
6くろづむごとく凍る日に
7天景をさへぬきんでゝ
8利根川のへに光らしめ
9いのるが如きく光らしめ、
――滯鄕 詩扁 哀語――
――鄕土詩扁――
――鄕土景物詩――
――一九一四、一一、一八五――
*]
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