萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 斷片 (無題)(あけぼのの遠い地平線で)
○
あけぼのゝ遠い地平線で
幽かな幽かな、赤ん坊(ぼ)の泣聲がきこゑる
見給ヘ
黎明のそうびいろの空に
くつきりと、
純金の母體が映つてゐる
それは歡喜と苦痛にふるへながら
第一の奇蹟の扉のまへに合掌して居る
おお、私のいぢらしい
ほんとうの、センチメンタリズムの姿だ
[やぶちゃん注:「ほんとう」はママ。これは既に「萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 遺稿詩篇 センチメンタリズムの黎明 / 筑摩版全集所収の同題の詩の別稿」の私の注で電子化した筑摩版全集の「未發表詩篇」に載る「センチメンタリズムの黎明」の最後の部分と酷似する。相同ではない。全体はリンク先を見て貰いたい。その最後の部分のみを転写する。
*
いまきけ
いま、あけぼのゝ遠い地平線で
幽かな幽かな、赤ん坊(ぼ)の泣聲合唄がきこゑる
おゝ見給ヘ
黎明のそうびいろの空に
感傷の純金の母體がうつ映つて居る
それは歡喜と苦痛にふるへながら
第一の奇蹟の扉のまへに合掌して居る
私の、おお、私のほんとういぢらしい
ほんとうの、センチメンタリズムの姿だ。
――八月十六日ノ日記ヨリ――
*
思うに、同一の原稿ではないかと推定される。]
« 萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 斷片 (無題)(ぬすびとといへども) | トップページ | 萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 遺珠 編註 「地上」・「(無題)(うちみれば低地にひろごりつづく)」 / 後者の無題詩は既に原稿が失われて現存しない »