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2021/12/25

萩原朔太郞詩集「蝶を夢む」正規表現版 商業

 

   商 業

 

商業は旗のやうなものである

貿易の海をこえて遠く外國からくる船舶よ

あひは綿や瑪瑙をのせ

南洋 亞細亞の島々をめぐりあるく異國のまどろすよ。

商業の旗は地球の國々にひるがへり

自由の領土のいたるところに吹かれてゐる。

商人よ

港に君の荷物は積まれ

さうして運命は出帆の汽笛を鳴らした。

荷主よ

水先案内(ぱいろつと)よ

いまおそろしい嵐のまへに むくむくと盛りあがる雲を見ないか

妖魔のあれ狂ふすがたを見ないか

たちまち帆柱は裂きくだかれ

するどく笛のさけばれ

さうして船腹の浮きあがる靑じろい死魚を見る。

ああ日はしづみゆき

かなしく沖合にさまよふ不吉の鷗はなにを歌ふぞ。

商人よ

ふたたび椰子の葉の茂る港にかへり

君のあたらしい綿と瑪瑙を積みかへせ

亞細亞のふしぎなる港々にさまよひ來り

靑空高くひるがへる商業の旗の上に

ああかのさびしげなる幽靈船のうかぶをみる。

商人よ! 君は冒險にして自由の人

君は白い雲のやうに、この解きがたくふしぎなる愁ひをしる。

商業は旗のやうなものである。

 

[やぶちゃん注:三行目「あひは」はママ。後発の二詩集への再録から、「あるひは」(ママ。歴史的仮名遣は「あるいは」でよい)の恐らくは植字の脱字である。初出未詳。]

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