萩原朔太郞詩集「蝶を夢む」正規表現版 まづしき展望
まづしき展望
まづしき田舍に行きしが
かわける馬秣(まぐさ)を積みたり
雜草の道に生えて
道に蠅のむらがり
くるしき埃のにほひを感ず。
ひねもす疲れて畔(あぜ)に居しに
君はきやしやなる洋傘(かさ)の先もて
死にたる蛙を畔に指せり。
げにけふの思ひは惱みに暗く
そはおもたく沼地に渴きて苦痛なり
いづこに空虛のみつべきありや
風なき野道に遊戯をすてよ
われらの生活は失踪せり。
[やぶちゃん注:初出は大正一〇(一九二一)年二月新潮社刊の詩話会編「現代詩人選集」。初出形は、六行目「畔(あぜ)に居しに」の「あぜ」のルビがなく、八行目の「指せり」に「指(さ)せり」とルビする。十行目「おもたく」は「重たく」で、十二行目の「すてよ」が「捨てよ」、最終行の「われら」が「我等」であるだけで、異同は些末な表記のみなので、掲げない。]
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