萩原朔太郞詩集「蝶を夢む」正規表現版 野景
野 景
弓なりにしなつた竿の先で
小魚がいつぴき ぴちぴちはねてゐる
おやぢは得意で有頂天だが
あいにく世間がしづまりかへつて
遠い牧場では
牛がよそつぽをむいてゐる。
[やぶちゃん注:筑摩版全集の「解題」の「初出形及び草稿詩篇」の「一、初出誌が判明しながら再録不能だったもの」の中に本詩集では、本篇のみが挙げられてあり、『「野景」(初出題名「晝」)(『白金帖』大正四年六月號)』とあり、初出形は載らない。しかし、同全集「草稿詩篇 蝶を夢む」には『野景(本篇原稿六種七枚)』として、一篇が挙げられている。初出形が採録出来なかったんだから、殆んど同じでも六種総てを出しゃあよかろうにと強く思うが、まあ、ともかく、それを以下に示す。標題は最初「釣竿」と書いて抹消して、「晝」である。
*
釣竿
晝
弓のやうにまがつた竿の先で
目高が一疋ぴちぴちはねてる
おやぢはいつしよけんめいだが
(おやぢはとくいで有頂天だが)
あいにく牛でさえも世界はけんがしいんとして居る→しづまりかへつてしいんとして
遠くの牧場では牛でさへも晝寢 をして居る→をしてる して居る、よそつぽをむいて居る、
*
後に編者注があり(〔 〕は編者による補正)、『「幼年思慕扁〔篇〕、」「幼年詩扁〔篇〕、玩其箱ヨリ、」と附記された別稿もある。』とある。やっぱ、全部載せるべきでしょう!]
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