萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 斷片 (無題)(私たちは舟を浮べる)
○
私たちは舟を浮べる
浪まに浪をのりこえて海のしぶきにのりゆく舟を
舟、舟、舟、
するどき細きますとをもてるひとつの小舟
ろがいの音もゆたかにのりゆく浪路のうへ
こげよ、こげよ、こげよ、人々
いま私たちの心は悲しむ
どこに寂しむ、潮鳴りの千鳥を聲聲
ながるるものは水なるか
頰につめたき流星の
[やぶちゃん注:太字は底本では傍点「ヽ」。筑摩版全集では、「未發表詩篇」に、以下のように出る。「ま白つな」「千鳥を」はママ。太字部分はこちらでは傍点「◦」である。
*
○
私たちは舟を浮べる、
浪また浪をのりこえて浪海のしぶきにのりゆく舟を、
舟、舟、舟、
ま白つな白帆するどき細きますとをはりあげたもてる絹 舟ひとつの小舟
ろがいの音もゆたかにのりゆく浪路のうへ、
こげよ、こげよ、こげよ、人々、
いま私たちの心は悲しむ、
どこに寂しむ、海の鳴潮鳴の千鳥を聲々
ながるるものは水なるか、
みよや 私 孤獨の月は空に、
頰につめたき流星の
*
後に編者注があって、『本稿には以下がない。五行目「ろがい」の横の〇印は原文のまま。』とある。まず、同じ草稿であろう。]
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