萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 斷片 (無題)(くひくやみ)
○
くひくやみ
ひとまを出でず哀しめる心のうへにあらに
またもや光るゆうれいのしぬびてあらはれ
うすしら菊のためいきの
犯せる菊のためいきのうつれるものを
くちづけのおもひでもほのぼのと光るゆうれいの
またしみじみといぢらしげにもなりゆき
しなえたる小指の文字を
白きゆうれひのしろじろと淚をぞにじましむ
[やぶちゃん注:冒頭の「くひ」(悔(く)い)はママ。筑摩版全集では、同じ無題で以下が「未發表詩篇」に載る。表記の誤りは総てママ。「たのいき」は「ためいき」の誤記であろう(筑摩版校訂本文も「ためいき」とする)。
*
○
光るゆうれいの、
くひくやみ
ひとまを出です哀しむめるわれの心のうえにあらはれ
*あゝまたもや光るゆうれいの生→いき のしなりあらはれしぬびあらはれまねきて//またもや光る光るゆうれひのしなりぬびあらはれ*
[やぶちゃん注:「*」と「//」は私が附したもので、「あゝまた心や光るゆうれいの生→いき のしなりあらはれしぬびあらはれまねきて」と「またもや光る光るゆうれひのしなりぬびあらはれ」が並置残存していることを示す。]
┃光るうすしら菊のたのつきの
┃犯せる菊のためいきのうつれるものを
§
┃かのくちづけのおもひでも
┃うすほのぼのとしら菊のたのいきの、
┃犯せる菊のためいきのうつ映れるものを
[やぶちゃん注:以上の「┃」はこれは編者の附したもので、前二行と後三行では実際には切れずに続いている。「§」は私は附したもの。前者二行はワン・セットであること意味し、それが後の三行のワン・セットと並置残存していることを示す。]
光るゆうれいの
またしんにしみじみといぢらしげにもなりゆき
しなえたる小指のうえへに文字を
光る白きゆうれひのさめざめとしろじろと淚をぞしみじみとにじましむ。
*
整序すると(私の記号のはそのまま移した)流石に「たのつき」は意味が判らぬので、「ためいき」に代えた)、
*
○
くひくやみ
ひとまを出です哀しめる心のうえにあらはれ
*またもや光るゆうれいのしぬびまねきて//光るゆうれひのしぬびあらはれ*
┃うすしら菊のためいきの
┃犯せる菊のためいきのうつれるものを
§
┃くちづけのおもひでも
┃ほのぼのとしら菊の
┃犯せる菊のためいきの映れるものを
光るゆうれいの
またしみじみといぢらしげにもなりゆき
しなえたる小指の文字を
白きゆうれひしろじろと淚をぞにじましむ。
*
本篇とかなり似ている。小学館編者に対して好意的に考えるなら、筑摩版の以上の草稿以を新たに書き直した後の別稿ととることも出来るが、う~ん、何とも言えない。私は本底本のパート名の「斷片」という項立て自体に、やや不審(忠実に断片原稿を適正確実に活字化したかどうかという点で)を抱き始めているからである。]
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