萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 斷片 (無題)(わが肱かけ椅子は木製にして)
○
わが肱かけ椅子は木製にして
するどきくるぶしのいたみを加ふ
今日しも
われは椅子をはなれず
手に捧ぐるは重たきくるうすの書物
ここに醫學のことばあり
「あまつさへ病毒は炎症」
[やぶちゃん注:「くるうす」は「くるす」で、キリスト教の書物か、と一読思わせるが、以下から「クロース」(cloth)装(布装)の書物の意である。筑摩版全集の「未發表詩篇」に以下がある。誤字(「レウマリス」「おとづゝる」)はママ。□は判読不能字。
*
○
わが肱かけ椅子は木製にして
するどきくるぶしのいたみを加ふ
今日しもわれは椅子をはなれず
手に捧ぐるは重たき厚き油繪くろうすの書物
そこ
こゝに醫學のことばあり
疾患性「あまつさへ病毒は潛伏の發シンは旬日は炎症」
「麻□性疾患及びレウマリスの療法について記されるもの」
ここに祈禱のことばあり
然れども
今扉にひねもす
おとづゝるものはたれぞや
しきりに落葉するころほひ
日くれほのかにその瞳 とのもをうかゞへば扉のすきまより
* 本稿には以下がない。
*
小学館版は、この同一の原稿の後半の「麻□性疾患及びレウマリスの療法について記されるもの」以下が付属しない同一原稿の前半をもとに判読したものと推定してよい。]
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