萩原朔太郞詩集「蝶を夢む」正規表現版 遊泳
遊 泳
浮びいづるごとくにも
その泳ぎ手はさ靑なり
みなみをむき
なみなみのながれははしる。
岬をめぐるみづのうへ
みな泳ぎ手はならびゆく。
ならびてすすむ水のうへ
みなみをむき
沖合にあるもいつさいに
祈るがごとく浪をきる。
[やぶちゃん注:初出は大正三(一九一四)年七月号『詩歌』。標題は「遊樂」。以下に示す。異同は少ない。
*
遊樂
浮びいづるごとくにも
その泳ぎ手はさあをなり
みなみをむき
なみなみのながれははしる
岬をめぐるみづのうへ
みな泳ぎ手はならびゆく。
ならびてすゝむ水のうへ
みなみをむき
沖合にあるもいつさいに
祈るがごとく浪をきる。
*
なお、筑摩版全集の「一九一三、九 習作集第九卷」に以下の草稿がある。
*
遊泳
ふかみに泳ぎ
しづめば肉はみどりに
浮べば瞳に島は落つ
岬をめぐり泳ぎいて
ああたましひもぬれぬれし
魚ら肌をくすぐりて
さ靑になづむ海のみづ
岬をめぐり泳ぎいで
なみなみのうへを遊泳す
遊樂至上のみづのうへ
沖合を見ればいつさいに
鷗さんさんとび散れり
みよ日は眞夏
うしほのみちひ音なみ遠に
われの肉生命にめざめ
地平にもろ手をさしのべて
よろこびするどく水をきる
よろこびするどく水をきる
*]
« 萩原朔太郞詩集「蝶を夢む」正規表現版 戀を戀する人 | トップページ | 萩原朔太郞詩集「蝶を夢む」正規表現版 瞳孔のある海邊 »