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2021/12/09

萩原朔太郎詩集 遺珠 小學館刊 斷片 瓶

 

  

 

あるこーるづけの蛙

あるこーるづけの鼠

あるこーるづけの心臟

あるこーるづけの貝

ぢつと透して居ると

ぽんやりした玻璃光線の中に

いろいろなものがみえる

白つぽけた人間の耳

ゆがんだ病氣の手

 

うすあかりの床にこごまつて

おれは胎兒のやうに泣きはじめた

 

[やぶちゃん注:筑摩版全集では「未發表詩篇」に、以下のようにある。表記は総てママ。二箇所の「栅」は校訂本文では「棚」に消毒されている。

   *

 

 

 

  うすぐらい床の隅で

  長い長い栅の隅に

  いろいろな甁が見える竝んで居る

 

あるこーるづけの蛙

あるこーるづけの鼠

あるこーるづけの心臟

あるこーるづけの貝

ぢつと甁を透してみると居ると

ぽんやりした硝子玻璃光線の中にみえる、

いろいろなものがみえる、

白つぽけた人間の耳がある

ゆがんだ病氣の手がある

┃……………

┃うすあかりの床の 上で 隅で栅のまへで

┃おれは胎兒のやうにこごまつて泣き出した、

┃……………

┃……………

┃ぼんやりした光線の中で

┃うすあかりの床にこごまつて

┃おれは胎兒のやうにこゝまつて いて居た、出した、はぢめた、

[やぶちゃん注:「┃」は編者の附したもので、前と後では実際にはそれぞれ連続している。「↕」は私が附した。則ち、前の三行と後の五行の二つのパートを並置残存していることを意味する。]

 

   *

なお、以上の後には編者注で、『冒頭三行は、あとから書き加えられたとみられ、下方に記されている。』とある。まず、本篇は、この同一原稿か、或いは、この原稿を、一度、別に清書した稿ともとれる。

 なお、筑摩版全集では、『草稿詩篇「未發表詩篇」』に、この「甁」の別草稿(無題)がある。以下の示す。表記は総てママ。

   *

 

  

 

あるこーるづけにしたの蛙

あるこーるづけにしたの鼠

あるこーるづけの心臟→耳→蛙 心臟

あるーるの貝

あるこーるづけの手

この長い長い栅の上に

いつさいの ものがくさらないために→ものをあるこーるにつけた ものがくさらないやうに

なにもかもなにもかもくさらないやうに

なにもかもあるこーるあるこーるにつけである

見給へおれはおれの耳をちよんぎつて

このうすぼんやりした光線の中

あるこーるづけの甁が 竝んで居る 行列して居る

白つぽけたおれの耳がつけてある、

いつばんぢつと透してみると

このぼんやりした光線の中  

いろいろの甁がならんで居る

そしてみよ、このそしてぼんやりした甁の中 では 透してごらん光線で

白つぽけた人間の耳がある

ゆがんだ 人の病氣の手があ

ああぼんやり光線の中で

おれは わたしは胎兒のやうに

ああ哀し

ぢつと透して 見給へ→ごらん

うすらあかりの床の上に

ああ、その ああ哀しみたえがたく

おれは胎兒のやうにかぢかんでこごまつて泣き出した、

 

かすしれぬ甁が竝んで居る行列して居る、

そしてみよ

ごらんごらん、こゝには おれの

このぼんやりした光線の中

甁の中に

わたし人間の肢體がつけてあるあります、

 

   *

以上には編者注があり、『末尾六行は1112の間に』(「このぼんやりした光線の中   」と「いろいろの甁がならんで居る」の間のことと思われる)『插入記號を附して用紙下方に記されているが、12行目以下と重複するところがあり、それの別稿とみられる。』とある。

 なお、個人的には、この独特の――あの理科室の標本棚の饐えた臭いのする詩篇が――頗る好き――である。]

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