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2021/12/19

萩原朔太郞詩集「蝶を夢む」正規表現版 腕のある寢臺

 

   腕のある寢臺

 

綺麗なびらうどで飾られたひとつの寢臺

ふつくりとしてあつたかい寢臺

ああ あこがれ こがれいくたびか夢にまで見た寢臺

私の求めてゐたただひとつの寢臺

この寢臺の上に寢るときはむつくりとしてあつたかい

この寢臺はふたつのびらうどの腕をもつて私を抱く

そこにはたのしい愛の言葉がある

あらゆる生活(らいふ)のよろこびをもつたその大きな胸の上に

私はすつぽりと疲れたからだを投げかける

ああこの寢臺の上にはじめて寢るときの悅びはどんなであらう

そのよろこびはだれも知らない祕密のよろこび

さかんに强い力をもつてひろがりゆく生命(いのち)のよろこびだ。

みよ ひとつの魂はその上にすすりなき

ひとつの魂はその上に合掌するまでにいたる

ああかくのごとき大いなる愛憐の寢臺はどこにあるか

それによつて惱めるものは慰められ 求めるものはあたへられ

みなその心は子供のやうにすやすやと眠る

ああ このひとつの寢臺 あこがれもとめ夢にみるひとつの寢臺

ああこの幻(まぼろし)の寢臺はどこにあるか。

 

[やぶちゃん注:「びらうど」はママ(歴史的仮名遣でも「びろうど」でよい)。初出は大正六(一九一七)年六月号『感情』で、標題は「まぼろしの寢臺」である。以下に示す。太字は底本(筑摩版全集)では傍点「ヽ」。歴史的仮名遣の誤り等は、総てママ。

   *

 

 まぼろしの寢臺

 

きれいなびろうどで飾られたひとつの寢臺

ふつくりとしてあつたかい寢臺

ああ あこがれ こがれ、いくたびか夢にまで見た寢臺

私の求めてゐたたつたひとつの寢臺

この寢臺の上に寢るときはむつくりとしてあつたかい

この寢臺はふたつのびろうどの腕をもつて私を抱く

そこにはたのしい愛の言葉がある

あらゆる人生の悅びをもつたその大きな胸のうへに

私はすつぽりと疲れたからだを投げかける

ああ この寢臺のうへにはじめて寢るときの悅びはどんなであらふ

その悅びはだれも知らない秘密のよろこび

さかんに强い力をもつてひろがりゆく生命のよろこびだ

みよ、ひとつのたましひはその上にすすりなき

ひとつのたましひはその上に合掌するまでにいたる

ああ かくのごとき大いなる愛戀の寢臺はどこにあるか

それによつて惱めるものはなぐさめられ、求めるものはあたへられ、その心は子供のやうにすやすやとしづかに眠る

ああ このひとつの美美しい寢臺、あらゆる生命の悅びをみつめる寢臺

それにも知らぬ遠方に見え

あとかたもなく失はれたるまぼろしの寢臺はどこにあるか

 

   *]

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