萩原朔太郞詩集「蝶を夢む」正規表現版 悲しい月夜
悲しい月夜
ぬすつと犬めが
くさつた波止場の月に吠えてゐる
たましひが耳をすますと
陰氣くさい聲をして
黃色い娘たちが合唄してゐる
合唄してゐる
波止場のくらい石垣で。
いつも
なぜおれはこれなんだ
犬よ
靑白いふしあはせの犬よ。
[やぶちゃん注:「月に吠える」からの再録。「合唄」は「月に吠える」でも同じ。これではとても「合唱」とは読めないが、朔太郎は「がつしやう」と当て読みしていると考えるべきであろうか。後発の生前の詩集群では「合唱」に書き直されてある。但し、「萩原朔太郎「ソライロノハナ」より「午後」(9) たそがれ Ⅵ」(私のブログ分割版。一括縦書ルビ版(PDF・1MB弱)もある)では、一首に「ある宵のオペラの序幕合唄隊(コーラス)の中に見し人わすられぬ哉」という用例があり、この二字で「コーラス」という読みも排除出来ない。因みに、この当て読みのケースは私の「日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳)」でも、二度、出現しており(ここと、ここ)、後者では「合唄(コーラス)」というルビも施されてある。『萩原朔太郎詩集「月に吠える」正規表現版 悲しい月夜』と比較されたい。]
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