萩原朔太郎詩集「宿命」「散文詩」パート(「自註」附) 正規表現版 淚ぐましい夕暮
淚ぐましい夕暮
これらの夕暮は淚ぐましく、私の書齋に訪れてくる。思想は情調の影にぬれて、感じのよい溫雅の色合を帶びて見える。ああいかに今の私にまで、一つの惠まれた德はないか。何物の卑劣にすら、何物の虛僞にすら、あへて高貴の寬容を示し得るやうな、一つの穩やかにして閑雅なる德はないか。――私をして獨り寂しく、今日の夕暮の室に默思せしめよ。
[やぶちゃん注:初出は「新しき欲情」の「第三放射線」パートの「作品番號」「102」。以下に示す。珍しく異同がない。
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102
淚ぐましい夕暮 これらの夕暮は淚ぐましく、私の書齋に訪れてくる。思想は情調の影にぬれて、感じのよい溫雅の色合を帶びて見える。ああいかに今の私にまで、一つの惠まれた德はないか。何物の卑劣にすら、何物の虛僞にすら、あへて高貴の寬容を示し得るやうな、一つの穩やかにして閑雅なる德はないか。――私をして獨り寂しく、今日の夕暮の室に默思せしめよ。
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