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2022/01/31

萩原朔太郎詩集「定本 靑猫」正規表現版 まどろすの歌

 

   まどろすの歌

 

愚かな海鳥のやうな姿(すがた)をして

瓦や敷石のごろごろとする 港の市街區を通つて行かう。

こはれた幌馬車が列をつくつて

むやみやたらに圓錐形の混雜がやつてくるではないか

家臺は家臺の上に積み重なつて

なんといふ人畜のきたなく混雜する往來だらう。

見れば大時計の古ぼけた指盤の向うで

冬のさびしい海景が泣いて居るではないか。

淚を路ばたの石にながしながら

私の辨髮を脊中にたれて 支那人みたやうに步いてゐよう。

かうした暗い光線はどこからくるのか

あるひは理髮師(とこや)や裁縫師(したてや)の軒に artist の招牌(かんばん)をかけ

野菜料理や木造旅館の貧しい出窓が傾いて居る。

どうしてこんな貧しい「時」の寫眞を映すのだらう。

どこへもう! 外の行くところさへありはしない。

はやく石垣のある波止場を曲り

遠く沖にある帆船へかへつて行かう。

さうして忘却の錨を解き 記綠のだんだんと消えさる港を訪ねて行かう。

 

[やぶちゃん注:底本のPDF一括版を見られたいが(64及び65コマ目)、「辨髮」はこうも書くので、誤字・誤植とは言えない。「あるひは」はママ。「あるひは理髮師(とこや)や裁縫師(したてや)の軒に artist の招牌(かんばん)をかけ」の「artist」の大振りのポイントはママ(底本で確認されたい)。「記綠」は「記錄」の誤字或いは誤植。なお、『第一書房版「萩原朔太郞詩集」(初収録詩篇二十一篇分その他)正規表現版 「靑猫(以後)」 まどろすの歌』を見られたい。「どこへもう!」のエクスクラメンション・マークの追加以外は詩想上の異同はない。そちらでは、語注・初出も示してある。なお、先行する『萩原朔太郎詩集「定本 靑猫」正規表現版 海港之圖』(散文詩中に本篇の一部を改変した引用がある)も参照されたい。]

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