譚海 卷之四 阿州鳴戶鯛の事
○播州赤穗の人物語(はな)せしは、阿波の鳴門をこえし鯛は、肉かたく味ひ殊に美也。其鳴門を越たるしるしには、鯛の鼻に一きざ段(だん)付(つき)てあり、二度こえたるは段二つつきてあるを、其印に見わけはべる也といへり。されば鳴戶の波は鯛のはなに段つくほどけはしき瀨戶なりとしられけり。
[やぶちゃん注:「鳴戸骨(なるとぼね)か!?!」と思わず叫んでしまった。テレビのある番組で十数年ほど前に知った。そこではその骨変形(鳴戸の渦潮による骨折とそこでは言っていた)を「鳴戸ブランド」として売り出しているという話だったように記憶する。実際には鳴戸に限らぬようだが、マダイ(条鰭綱スズキ目タイ科マダイ亜科マダイ属マダイ Pagrus major )にのみ見られる中骨の尻鰭付近に出来る骨折が治癒したようなブレイク或いは瘤状変形のものであるという。これについては、多くのネット記事があるが、画像が豊富で、検証もしっかりしている茨城県那珂市のレストラン「ぺピート」のブログの「鯛の鳴門骨(なるとぼね)とは??観察して分かったこと【実は縁起物】」が非常によい。是非、読まれたい。但し、ここでは体内の骨折ではなく、頭部の口と眼の間の、一般に「鼻折れ」と呼ばれる部分を言っている。しかし、条鰭綱スズキ目タイ科 Sparidae の種は異様に多く、漁師の言う「タイ」はマダイに限らない。私の「大和本草卷之十三 魚之下 棘鬣魚(タヒ) (マダイを始めとする「~ダイ」と呼ぶ多様な種群)」の注を参照されたいが、「ハナオレダイ」の異名を持つ種も複数いる。私はカテゴリ『畔田翠山「水族志」』で電子化注しているが(なかなか進まない)、その冒頭部分には、厭になるほどごっそり「タイ」が並んでいる。ここでは「鼻折れ」が「一段」とか「二段」とか言っているけれど、実は種が異なるタイ科の種を混同しているのではないか? とちょっと疑りたくなるし、或いは、性差及び成長期や個体差異の可能性も否定出来ない。]
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