萩原朔太郎詩集「純情小曲集」正規表現版 洋銀の皿
洋 銀 の 皿
しげる草むらをたづねつつ
なにをほしさに呼ばへるわれぞ
ゆくゆく葉うらにささくれて
指も眞紅にぬれぬれぬ。
なほもひねもすはしりゆく
草むらふかく忘れつる
洋銀の皿をたづね行く。
わが哀しみにくるめける
ももいろうすき日のしたに
白く光りて淚ぐむ
洋銀の皿をたづねゆく
草むら深く忘れつる
洋銀の皿はいづこにありや。
[やぶちゃん注:初出は大正三(一九一四)年五月号『創作』。標題は「春日」。以下に示す。「さされて」はママ。
*
春日
しげる草むらをたづねつゝ、
なにを欲しさに呼ばへるわれぞ、
ゆくゆく葉うらにさされて
指も眞紅にぬれぬれぬ、
なほもひねもすはしりゆく、
草むらふかく忘れつる、
洋銀の皿をたづね行く、
わが哀しみにくるめける、
ももいろうすき日のしたに、
白く光りて淚ぐむ、
洋銀の皿をたづね行く、
草むら深く忘れつる、
洋銀の皿はいづこにありや。
*
筑摩版全集の草稿ノート「習作集第九卷(愛憐詩篇ノート)」に草稿がある。標題は「春日」。以下に示す。「葉らら」「くらむら」はママ。
*
春日
しげれる草むらをたづねつゝ
なにをほしさに泣くわれぞ
ゆくゆく笹の葉ららにさゝくれて
指よも眞紅にぬれぬれぬ
なほもひねもすはしりゆく
くらむら深く忘れつる
洋銀の皿をたづねゆく
わが哀しみにくるめける
ももいろうすき日の下に
あかすひねもす唄ひつゝ
白く光りて淚ぐむ
洋銀の皿はいづこにありやをたづねゆく
草むれら深く忘れつる
洋銀の皿が唄ふなり→たづねゆくはいづこにありや、
*]
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