毛利梅園「梅園介譜」 水蟲類 カタ〻ヱビ / 産地誤認のテッポウエビ或いはテナガエビの第二歩脚の欠損個体(再出)
[やぶちゃん注:底本の国立国会図書館デジタルコレクションのここからトリミングした。この丁の図は、皆、小さいが、本種が最も大きく描かれているから、梅園にとっては興味ある対象であったことが見てとれる。なお、実際には、以下の画像の中央下部左寄りには、下方に描かれた「朝鮮ガニ」のキャプションがあるのだが、流石に五月蠅いので、今回は文字のない本丁の一部分を切り取り、それをそこに貼りつけて、意図的に消してある。]
鰕一種【「かたゑび」。】
かた〻ゑび
【江刕。京。】
江刕西堅田より出づる蝦。名産にして、其の地の、各(おのおの)を[やぶちゃん注:「それぞれの地名を冠して」の意であろう。]「松原ゑび」も亦、同じ。武江にて、芝の海より産する者を「芝ゑび」と呼び、皆、相ひ同じ。「芝ゑび」の中に、江刕にて、「堅田(かたた)ゑび」と称する者、希れにあり。則ち、條下に圖す。
乙未(きのとひつじ)陸月廿八日、眞寫す。[やぶちゃん注:「陸」は同字の異体字のこちら(「グリフウィキ」)と思われる。ネットを調べると、人名で「陸月」と書いて「むつき」と読ませるケースがあるとするから、一月の異名「睦月」と採ってよい。]
[やぶちゃん注:これは先の『毛利梅園「梅園介譜」 水蟲類 大脚蝦(テンボウヱビ)・白タヱビ・田ヱビ / テッポウエビ(概ね図のみ)・テナガエビの第二歩脚の欠損個体(解説内)・シラタエビ・ヤマトヌマエビ(最後は再出か)』で出た、散々、困らされた最上部の個体と同じ種である。そちらで述べた通り、見た目は、テッポウエビ科 Alpheidae の最大級の種である、
節足動物門軟甲綱ホンエビ上目十脚目抱卵(エビ)亜目コエビ下目テッポウエビ上科テッポウエビ科テッポウエビ属テッポウエビ Alpheus brevicristatus
にしか私には見えないのだが、それはあり得ない。テッポウエビは日本を含む東アジア沿岸海域の内湾・浅海の砂泥底、則ち、干潟にのみに棲息する海産エビで、内陸の琵琶湖(「堅田」(かたた)「松原」は琵琶湖沿岸の地名)には棲息しているはずがないからである。されば、そこで私は、そちらに出た藤居重啓著になる「湖中産物圖證」の写本の図を引き、本文を読んで、結果して、
十脚目テナガエビ科テナガエビ亜科テナガエビ属テナガエビ Macrobrachium nipponense の片方の鉗脚の欠損個体
を指していると断じた。誰からも、本種を別のこの種であると名指す御意見を頂いていないので、これを変更する気はない。引き続き、識者の御教授を乞うものではある。以前なら、私の博物図譜の電子化注にエールを送って戴いた、著名な魚類学者の方がおり、幾つかの種同定で、それぞれの専門家の方に同定を依頼して下さったが、その先生も既に鬼籍に入られており、そうした専門家との関係も一切なくなったので、最早、万事休すなのである。
なお、ここに書かれた解説は冒頭のリンク先の内容と殆んど重複しているので、新たに注は不要と思われる。]
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