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2022/01/09

第一書房版「萩原朔太郞詩集」(初収録詩篇二十一篇分その他)正規表現版 「靑猫(以後)」 風船乘りの夢

 

風船乘りの夢

 

夏草のしげる叢(くさむら)から

ふはりふはりと天上さして昇りゆく風船よ

籠には舊曆の曆をのせ

はるか地球の子午線を越えて吹かれ行かうよ。

ばうばうとした虛無の中を

雲はさびしげにながれて行き

草地も見えず 記憶の時計もぜんまいがとまつてしまつた。

どこをめあてに翔けるのだらう

さうして酒瓶の底は空しくなり

醉ひどれの見る美麗な幻覺(まぼろし)も消えてしまつた。

しだいに下界の陸地をはなれ

愁ひや雲やに吹きながされて

知覺もおよばぬ眞空圈内へまぎれ行かうよ。

この瓦斯體もてふくらんだ氣球のやうに

ふしぎにさびしい宇宙のはてを

友だちもなく ふはりふはりと昇つて行かうよ。

 

[やぶちゃん注:太字は底本では傍点「ヽ」。初出は大正一二(一九二三)年一月号『詩聖』。以下に示す。「ふわりふわり」はママ。太字は同前。

   *

 

 風船乘りの夢

 

夏草のしげる草叢(くさむら)から

ふわりふわりと天上さして昇りゆく風船よ

籠には舊曆の曆をのせ

はるか地球の子午線を越えて吹かれ行かうよ

ばうばうとした虛無の中を

雲はさびしげにながれて行き

草地も見えず 記憶の時計もぜんまいがとまつてしまつた。

どこをめあてに翔けるのだらう

さうして酒瓶の底は空しくなり

醉ひどれの見る美麗な幻覺(まぼろし)も消えてしまつた。

しだいに下界の陸地をはなれ

愁ひや雲やに吹きながされて

知覺もおよばぬ眞空圈内へまぎれ行かうよ。

この瓦斯體もてふくらんだ氣球のやうに

ふしぎにさびしい宇宙のはてを

友だちもなく ふわりふわりと昇つて行かうよ。

 

   *]

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