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2022/01/11

第一書房版「萩原朔太郞詩集」(初収録詩篇二十一篇分その他)正規表現版 「靑猫(以後)」 沼澤地方

 

沼 澤 地 方

 

蛙どものむらがつてゐる

さびしい沼澤地方をめぐりあるいた。

日は空に寒く

どこでもぬかるみがじめじめした道につづいた。

わたしは獸(けだもの)のやうに靴をひきずり

あるいは悲しげなる部落をたづねて

だらしもなく 懶惰(らんだ)のおそろしい夢におぼれた。

 

ああ 浦!

もうぼくたちの別れをつげよう

あひびきの日の木小屋のほとりで

おまへは恐れにちぢまり 猫の子のやうにふるへてゐた。

あの灰色の空の下で

いつでも時計のやうに鳴つてゐる

浦!

ふしぎなさびしい心臟よ。

!  ふたたび去りてまた逢ふ時もないのに。

 

[やぶちゃん注:「懶惰」の「懶」は(つくり)が「頼」の字になった異体字(「グリフウィキ」のこれ)であるが、表示出来ないので「懶」とした。前の「猫の死骸」に続く同じ――亡き幻しの「浦」詩篇――である。また、私の中学時代の萩原朔太郎原体験詩篇の忘れ難い一つであもある。「沼澤地方」という荒涼としたこの詩語は、確かに私の小さな心臓を抉ったのであった。

 初出は大正一四(一九二五)年二月発行の『改造』。既に古く私は「沼澤地方 萩原朔太郎 (初出形 附 改稿3種)」を公開しているので、そちらを参照されたい。]

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