毛利梅園「梅園介譜」 水蟲類 猿猴蟹(ヱンコウガニ) / ケンナシコブシ
[やぶちゃん注:底本のここからトリミングした。]
猿猴蟹【「ゑんこうがに」。筑前柳川産。】
[やぶちゃん注:「エンコウガニ」は現在の和名では十脚目短尾(カニ)下目オウギガニ上科エンコウガニ科エンコウガニ属エンコウガニ Carcinoplax surgensis に与えられているが、同種は「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」の同種のページの画像を見て判る通り、この図のような背部全身に見られる棘状突起は持たず、甲はすべすべしていて、しかも、赤みを帯び、甲部の形状がまるで異なるから、本種ではない(「猿猴」はサルを指す。エンコウガニは猿の顔の形をしていて、且つ、甲が赤いことから命名されたものである)。このような、激しい棘状突起を有するのは、調べた限りでは、
短尾下目 Leucosioidea上科コブシガニ科エバリア亜科Ebaliinae Urashima 属ケンナシコブシ Urashima pustuloides
しかいないように思われる。英文サイト「World Register of Marine Species(WoRMS)」のこちらのデータ及び画像の「C」を見られたい。図と酷似することが判る。本種に同定する。深海性(水深三百二十~三百六十メートル附近)のカニである点で、梅園が入手した出来たことは、やや疑問だが(当時の底引網漁で採れなくはあるまい)、本邦に広く分布するようである。サイト「日本十脚目写真館」のこちらの画像が鮮やかである。ただ、その分、本図とはちょっと違って見えるが、梅園の入手したものは、既に死んだ個体で、時間を経た乾燥標本であれば、違和感はない。ただ、入手地を「筑前柳川」とするとなると、ちょっと疑問で、有明海の最深点は湾口部の湯島西方で、それでも百六十五メートルしかない点である。或いは、本種の死亡個体が、有明海の外の深海底で亡くなり、それが漂って、柳川近くまで浮上したものが、漁師の底引網に掛かったとすれば、あり得ぬことではないと私は思う。色がくすんでしまった理由もそれで説明がつくようにも感ずる。他種であるとすれば、御教授戴けると幸いである。]
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