第一書房版「萩原朔太郞詩集」(初収録詩篇二十一篇分その他) 正規表現版 「靑猫(以後)」 沿海地方
沿海地方
馬や駱駝のあちこちする
光線のわびしい沿海地方にまぎれてきた。
交易をする市場はないし
どこで毛布(けつと)を賣りつけることもできはしない。
店鋪もなく
さびしい天幕(てんまく)が砂地の上にならんでゐる。
どうしてこんな時刻を通行しよう
土人のおそろしい兇器のやうに
いろいろな呪文がそこらいつぱいにかかつてしまつた。
景色はもうろうとして暗くなるし
へんてこなる砂風(すなかぜ)がぐるぐるとうづをまいてる。
どこにぶらさげた招牌(かんばん)があるではなし
交易をしてどうなるといふあてもありはしない。
いつそぐだらくにつかれきつて
白砂の上にながながとあふむきに倒れてゐよう。
さうして色の黑い娘たちと
あてもない情熱の戀でもさがしに行かう。
[やぶちゃん注:底本の単独HTML画像では、ここ。初出は大正一二(一〇二三)年六月号『新潮』。歴史的仮名遣の誤り以外には大きな異同はないが、古くに電子化してあるので、そちら(「沿海地方から 萩原朔太郎 (「沿海地方」初出形)」。古いものなので正字不全があったので、補正しておいた)を見られたい。実は、これ、電子化をし忘れていた。一月弱後の、二〇二二年二月五日、『萩原朔太郎詩集「定本 靑猫」正規表現版』で本詩篇に至り、落としていたことに気づいたという為体であった。遅ればせながら、電子化し、古い記事も表記修正を施した次第である。ただ、ブログの順列で挿入して置かないと、読者のために不親切であるので、あるべきところに入るように、公開日時を操作をしておいたことをお断りしておく。]
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