萩原朔太郎詩集「定本 靑猫」正規表現版 綠色の笛
綠 色 の 笛
この黃昏の野原のなかを
耳のながい象たちがぞろりぞろりと步いてゐる。
黃色い夕月が風にゆらいで
あちこちに帽子のやうな草つぱがひらひらする。
さびしいですか お孃さん!
ここに小さな笛があつて その音色は澄んだ綠です。
やさしく歌口(うたぐち)をお吹きなさい
とうめいなる空にふるへて
あなたの蜃氣樓をよびよせなさい。
思慕のはるかな海の方から
ひとつの幻像(いめぢ)がしだいにちかづいてくるやうだ。
それは首のない猫のやうで 墓場の草影にふらふらする。
いつそこんな悲しい景色の中で 私は死んでしまひたいのよう! お孃さん!
[やぶちゃん注:「萩原朔太郞 靑猫(初版・正規表現版) 綠色の笛」を参照されたい。]
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