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2022/02/22

萩原朔太郞「拾遺詩篇」初出形 正規表現版 ありや二曲

 

 ありや二曲

              ゆめみるひと

 

   ×

 

えこそ忘(わす)れめや

そのくちづけのあとやさき

流(なが)るゝ水(みづ)をせき止(と)めし

わかれの際(きは)の靑(あほ)き月(つき)の出(で)

 

   ×

 

雨(あめ)落(おち)し來らんとして

沖(おき)につぱなの花(はな)咲(さ)き

海月(くらげ)は渚(みぎは)にきて靑(あほ)く光(ひか)れり

砂丘(おか)に登(のぼ)りて遠(とほ)きを望(のぞ)む

いま我(わ)が身(み)の上(うへ)に

好(よ)しと思(おも)ふことのありけり

 

[やぶちゃん注:大正二(一九一三)年十月五日附『上毛新聞』に発表された。前の「暮春詠嘆調」の翌日の同紙上である。

・「靑(あほ)」二ヶ所はママ。

・「つぱな」はママ。「つばな」の誤植。前回、注した通り、この「沖につばなの花咲き」というのはちょっと躓く。「つばな」は「茅花」でチガヤの花穂を指すからだが、前の「雨おとし來らんとして」から、海が荒れて白波が立っているのをかく比喩したものと読める。或いはそれを「津花」と洒落たのかも知れぬ。

・「砂丘(おか)」は二字のルビで「おか」はママ。萩原朔太郎自身の原稿ルビであろう。

五月蠅いので、今回は読みで躓く「落(おち)し」の「ち」を外に出し、明白な誤植である「つぱな」を訂し、読みの振れるもの以外を除去した版を示しておく。

   *

 

 ありや二曲

 

 

   ×

 

えこそ忘れめや

そのくちづけのあとやさき

流るゝ水をせき止(と)めし

わかれの際の靑き月の出

 

   ×

 

雨落ちし來らんとして

沖につばなの花咲き

海月は渚(みぎは)にきて靑く光れり

砂丘に登りて遠きを望む

いま我が身の上に

好しと思ふことのありけり

 

   *

 「習作集第八巻(愛憐詩篇ノート)」に「ゆく春のうたありや」という草稿があり、その中に、本篇の草稿があるが、前回、既にその全草稿を電子化してあるので、そちらを見られたい。最後の二連が本篇の草稿である。

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