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2022/02/15

狗張子卷之四 非道に人を殺す報

 

[やぶちゃん注:今回の挿絵は状態が最もよい現代思潮社版のそれをトリミングして、以下に挿入した。]

 

Hidou

 

   ○非道に人を殺す報(むくひ)

 寬永五年の秋八月の事にや、周防(すはうの)國野上(のかみ)の庄に關久兵衞尉兼元とて、武勇の侍あり。

 そのかみ、天正十八年に伊豆(いづの)國山中(やまなか)の城軍(じやういくさ)の時、比類なき手柄をあらはし、高名(かうみやう)あるをもつて、中國(ちうごく)にありつきけり。

 めしつかひける下人夫婦(げにんふうふ)有《あり》しが、さしたる科(とが)にもあらぬ事を、よこしまに、いひかけて、無理に打《うち》ころしけり。

 夫婦ながら、さいごに、のぞみて、

「我ら、さしたる科もなきに、ころさるゝ事、力(ちから)なし。年來(ねんらい)、私(わたくし)なく、めしつかはれしかども、今、かく、うきめをみる。此うらみ、いたりて、ふかし。來世の事なくば、是非に及ばず。未來にも、魂《たましひ》のあらば、思ひしらせまゐらせん。」

と、いうて、首を、うたれたり。

 家の西のかた十町[やぶちゃん注:約一キロ九十一メートル。]ばかり、廣野(ひろの)に埋(うづ)みけり。

 死して七日にあたりける夜より、その塚に、火のもえ出《いで》て、子の刻になれば、鞠のごとくになりて、野道をつたうて、關が家に、ゆく。

 初めは、軒(のき)にかゝりて、火の色、靑く、光り、すくなかりけるに、百箇日過《すぎ》てより、火の色、さかりに赤くなり、塚をはなれ出《いで》て、關が家に飛び來たり、門の戶は、つよくさしかためたるを、

「戶より、内に、入(いる)か。」

と、みえし。

 關が子、たちまちにおびえ、おどろき、絕え入りけり。

 家内、きもをけし、さわぎあひけるうちに、その火、やがて、出《いで》て歸れば、關が子、正氣に成《なり》て甦(よみ)がへる。

 蟇目(ひきめ)を射れども、用ひず。

 僧を賴み、經をよみ、山臥(やまぶし)をよびて、祈らせ、御封屋札(ごふうやふだ)を、おして、ふせげども、少《すこし》も、しるし、なし。

 每夜の事なれば、家うち、つかれ、草臥(くたびれ)たり。

 二人の子は、病出(やみだ)して、さながら、驚風(きやうふう)のごとし。

 醫者(ゐしや)にかけて、養性(やうじやう)[やぶちゃん注:「養生」に同じ。]すれども、漸ゝ(ぜんぜん)、よはりて、兄弟、おなじ日に、死にけり。

 しかれども、塚の火は、留(とゞ)まらず、妻、又、歎きの中《うち》より、わづらひ出《いだ》し、狂氣のやうになりて、狂ひ死(し)にけり。

 關も、ちからなく、自空長老(じくうちやうらう)とて活僧(くわつそう)の有しを、請じ、塚に卒都婆(そとば)をたてて、塚を、まつりしかば、亡魂(ばうこん)、これにや、しづまりけん、火は、もえやみしかども、關も、いくほどなく、死にければ、跡、つひに絕《たへ》たり。

[やぶちゃん注:「報(むくひ)」以前から、この歴史的仮名遣について言わねばならないと思っていたので、ここで言っておくと、「むくひ」も「むくい」も孰れも歴史的仮名遣としては正しい(私自身は、勝手に、かなり長い間、「むくひ」が正しいと思い込んでいた)。「報ふ」は「報ゆ」から生まれた動詞で(「酬ふ」も同じ)。ヤ行上二段活用(報いず・報いたり・報ゆ・報ゆる時・報ゆれば・報いよ)及びハ行四段活用(報はず・報ひて・報ふ・報ふ時・報へば・報へよ)の孰れもが、正しい歴史的仮名遣なのである。

「寬永五年の秋八月」同年八月一日はグレゴリオ暦で一六二八年八月二十九日。家光の治世。

「周防(すはうの)國野上(のかみ)の庄」現在の山口県周南市野上町(のがみちょう)附近(グーグル・マップ・データ)。

「關久兵衞尉兼元」現代仮名遣で「せききゅうひょうえのじょうかねもと」。不詳。江本裕氏の論文「『狗張子』注釈(三)」(『大妻女子大学紀要』一九九九年三月発行・「大妻女子大学学術情報リポジトリ」のこちらから同題論文の総て((一)~(五))がダウン・ロード可能)には、『未詳。『毛利氏八箇国御時代分限帳』(マツノ害店)で毛利氏の家臣としての「関氏」は確認できない。ただし』、本篇の『典拠の『本朝故事因緑集』には、「関久兵衛兼久」とある』とある。「本朝故事因緑集」は元禄二(一六八九)年板行の説話集。著者未詳で、説法談義に供される諸国奇談や因果話を収めたもの。全百五十六話。私は「伽婢子」以来、原拠は扱わない原則だが(私が学術研究者ではなく、単なる怪奇談蒐集家に過ぎない)、江本氏は解説で、そちらと深く関わって注されておられるので、例外的に原拠である同集の第五巻の百二十三の「墓火通(はかのひかよふ)」を、「国文学研究資料館」公式サイト内の原板本の当該部でリンクさせておく。

「天正十八年、伊豆(いづの)國山中(やまなか)の城軍(じやういくさ)」同前で、『天正十八(一五九〇)年の、豊臣秀吉による小田原征討の一戦。山中城は後北条氏の防衛の最前線となった城で、渡辺勘兵衛の一番槍の話が知られる。【余説】参照。』とあるので、その「余説」の項も引用させて戴く。『語釈でも触れたように、本章は元禄二年刊の出典にほとんど拠っている。また、登場する「関久兵衛」は、山中城の戦で「比類なき手柄をあらはし」たとされ、一般的には北条方の侍ではない可能性が高い。更にその後、周防の国へ住み着いたことを考えれば、毛利氏の家臣であるはずだが、小田原征討の際、毛利氏は水軍を率いて相模湾にいる。とすると、「関久兵衛」と「周防」との関わりが不透明になり、歴史的な事柄をふまえて述作する作者にしては、やや配慮を欠くか。』とある。

「中國(ちうごく)」山陽道と山陰道を合わせた広域の中国地方の謂い。

「蟇目(ひきめ)」弓を用いた呪術。「蟇目」とは朴(ほお)又は桐製の大形の鏑(かぶら)矢。犬追物(いぬおうもの)・笠懸けなどに於いて射る対象を傷つけないようにするために用いた矢の先が鈍体となったものを指す。矢先の本体には数個の穴が開けられてあって、射た際にこの穴から空気が入って音を発するところから、妖魔を退散させるとも考えられた。呼称は、射た際に音を響かせることに由来する「響目(ひびきめ)」の略とも、鏑の穴の形が蟇の目に似ているからともいう。私の「耳囊 卷之三 未熟の射藝に狐の落し事」及び同じ「耳囊」の「卷之九 剛勇伏狐祟事」や「卷之十 狐蟇目を恐るゝ事」の本文や私の注をも参照されたい。怪奇談集では、頗るポピュラーな物の怪退散の武家式のアイテムである。

「用ひず」ここは「効用」の「用」で「効果が全くない」の意。

「山臥(やまぶし)」「山伏」に同じ。

「御封(ごふう)」ここは邪気を避ける結界を作るための「護符」のことであろう。但し、こういう用字は見かけない。江本氏もそう言っておられる。

「屋札(やふだ)」これも見かけない語であるが、同前の目的で、家屋の扉や門に張り付ける御札のことであろう。

「驚風(きやうふう)」小児が「ひきつけ」を起こす病気の称。現在の癲癇(てんかん)症や髄膜炎の類に相当する。関の二人の男子は小さかったようである。

「自空長老(じくうちやうらう)」江本氏の注に、『未詳。「本朝故事因縁集」では、「自空和尚」とある。』とある。

「活僧(くわつそう)」知恵が豊かで、生き生きとした頼りになる僧。中世以降の用語のようである。]

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