萩原朔太郎詩集「定本 靑猫」正規表現版 みじめな街燈
みじめな街燈
雨のひどくふつてる中で
道路の街燈はびしよびしよにぬれ
やくざな建築は坂に傾斜し へしつぶされて歪んでゐる。
はうはうぼうぼうとした煙霧の中を
あるひとの運命は白くさまよふ。
そのひとは大外套に身をくるんで
まづしく みすぼらしい鳶(とんび)のやうだ。
とある建築の窓に生えて
風雨にふるゑる ずつくりぬれた靑樹をながめる。
その靑樹の葉つぱがかれを手招き
かなしい雨の景色の中で
厭やらしく 靈魂(たましひ)のぞつとするものを感じさせた。
さうしてびしよびしよに濡れてしまつた。
影も からだも 生活も 悲哀でびしよびしよに濡れてしまつた。
[やぶちゃん注:「ふるゑる」はママ。私の「雨中を彷徨する 萩原朔太郎 (「みじめな街燈」初出形)」及び「萩原朔太郞 靑猫(初版・正規表現版) みじめな街燈」を見られたい。]
« 毛利梅園「梅園介譜」 水蟲類 川蟹(ドロガニ) / ベンケイガニ或いはクロベンケイガニ | トップページ | 萩原朔太郎詩集「定本 靑猫」正規表現版 恐ろしい山 »