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2022/02/26

萩原朔太郞「拾遺詩篇」初出形 正規表現版 决鬪

 

 决鬪

 

空(そら)と地(つち)とは綠はうまる、

綠をふみてわが行くところ、

靴は光る魚ともなり、

よろこび樹蔭におよぎ、

手に輕き薄刄(やいば)はさげられたり。

 

ああ、するどき薄刄(やいば)をさげ、

左手をもつて敵手(かたき)に揖す、

はや東雲(しののめ)あくる楢の林に、

小鳥うたうたひ、

きよらにわれの血はながれ、

ましろき朝餉をうみなむとす。

 

みよ我がてぶくろのうへにしも、

愛のくちづけあざやかなれども、

いまはやみどりはみどりを生み、

わがたましひは芽ばへ光をかんず、

すでに伸長し、

つるぎをぬきておごりたかぶるのわれ、

おさな兒の怒り昇天し、

烈しくして空氣をやぶらんとす、

土地(つち)より生るゝ敵手のまへ、

わが肉の歡喜(よろこび)ふるへ、

感傷のひとみ、あざやかに空にひらかる。

 

ああ、いまするどく鋭刄(やいば)を合せ、

手はしろがねとなり、

われの額きづゝき、

劍術は靑らみついにらじうむとなる。

 

[やぶちゃん注:太字は底本では傍点「ヽ」。一行目「空(そら)と地(つち)とは綠はうまる、」はこなれない表現で、校訂本文は「空(そら)と地(つち)とは綠にうまる、」とする(但し、以下の草稿断片ではママである)。「芽ばへ」「おさな兒」「きづゝき」「ついに」はママ。

・第二連末の「ましろき朝餉をうみなむとす。」というのは、「自然と大気が、最上の朝餉として、まさに私に与えられようとしている。」といった換喩表現であろう。

 底本の『草稿詩篇「拾遺詩篇」』に第一連の草稿原稿断片が載る。以下に示す。「さげらたり」はママ。「※」は「刅」の右の「ヽ」のない「刃」「刄」の異体字。

   *

 

  決鬪

 

空と地とは綠(みどり)はうまる

綠をふみてわがゆくところ

靴は光る魚となり

歡喜(よろこ)び樹蔭におよぎ

手に輕き利※(やいば)はさげらたり

 

   *]

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