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2022/02/26

萩原朔太郞「拾遺詩篇」初出形 正規表現版 感傷の塔

 

 感傷の塔

 

塔は額にきづかる、

螢をもつて窓をあかるくし、

塔はするどく靑らみ空に立つ、

ああ我が塔をきづくの額は血みどろ、

肉やぶれいたみふんすゐすれども、

なやましき感傷の塔は光に向ひて伸長す、

いやさらに伸長し、

その愁も靑空にとがりたり。

 

あまりに哀しく、

きのふきみのくちびる吸ひてきづゝけ、

かへれば琥珀の石もて魚をかこひ、

かの風景をして水盤に泳がしむるの日、

遠望の魚鳥ゆゑなきに消え、

塔をきづくの額は研がれて、

はや秋は晶玉の死を窓にかけたり。

 

[やぶちゃん注:大正三(一九一四)年十月号『詩歌』に発表された。「ふんすゐ」「きづゝけ」はママ。底本の『草稿詩篇「拾遺詩篇」』に無題の草稿原稿断片が載る(『(本原稿三種三枚)』とあるから、その内の一種のみが活字化されている)。以下に示す。歴史的仮名遣・誤字は総てママ。

   *

 

  ○

 

なやみの→感傷の晶玉の塔は額にきづかる

塔はなやみの胸

窓には→塔は螢をもて 明るくし窓を明るくし

わが塔はいや高くするどく靑らみて額に立つ空にきづかる

ああわがやるせなき感傷の□塔 を立つるの日

ああ塔を立つるの額は血みどろ

いたみやぶれ、いたみふんすゐすれども

  なやましき

わが     感傷の塔は光に向ひ伸長す、

  やるせなき

いやさらに空に愁ひはとがりたり

われあまりにかなしく

きのふきのきみのくち吸ひてきづゝけ

哀しくなりて山を おりしも→下れば くだりしが

かへれば琥珀の石もて魚をかこひ

かの風景をして水盤に洗がしむるたはむれも われはさびしやの日

遠望の魚鳥すべて故なくさえ

塔をきづくの額とがれて

はや秋は晶玉の姿を水に→うれひをひやゝかに

┃  窓にかく。

┃淚を

┃  つめたくうつす。

┃  つめたくうつせり。

┃光を

┃  うつしいだせり。

 

   *

最後の「┃」は私が附したもので「淚を」で始まる二候補、「光を」で始まる二候補が併置残存していることを示す。]

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