毛利梅園「梅園介譜」 水蟲類 濵蟹 / イシガニの幼体
[やぶちゃん注:底本の国立国会図書館デジタルコレクションのここからトリミングした。]
濵蟹
濵川の産。故に名とす。釣士隱老、「之れを捕りさせし。」と持ち歸り、送る。于時[やぶちゃん注:「時に」であろう。]天保酉年八月十八日、寫す。往々、雜魚(ざこ)の中に、蛤(はまぐり)の中に交じり耒(きた)る。
[やぶちゃん注:いろいろ考えたが、甲羅全体のずんぐりした形、及び、額棘が鋭いこと、第五脚が遊泳脚になっていること、「雜魚(ざこ)の中に、蛤(はまぐり)の中に交じり耒(きた)る。」という謂い(私には大きくはないと読める)から、
抱卵亜目短尾下目イシガニ属イシガニ Charybdis japonica の幼体
と踏んだ。本種については当該ウィキ、及び、「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」の同種のページ(画像はこちらがよい)見られたい。
「濵蟹」短尾下目イワガニ上科モクズガニ科 Cyclograpsinae 亜科ハマガニ属ハマガニ Chasmagnathus convexus がいるが、当該ウィキを見て戴ければ判ると通り、図の形状と全く合わないので違う。
「濵川」幾つかある地名であるが、刺し釣りして、梅園の元に持ち来たるに遠くない位置を考え、私は現在の東京都品川区南大井及び東大井附近の鮫洲の南の、旧北濱川及び南濱川と考える。現在は小学校の名前などに残るだけで、埋立によって内陸と勝島運河しかないが、「今昔マップ」のこちらを見ると、昭和十年頃までは海浜であったことが判る。
「釣士隱老」実名を伏したところをみると、相応の武家の隠居か。
「天保酉年八月十八日」天保八年丁酉(ひのととり)。グレゴリオ暦一八三七年九月十七日。]
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