萩原朔太郞「拾遺詩篇」初出形 正規表現版 うすやみ
うすやみ
夢みるひと
うすやみに光(ひか)れる皿(さら)あり
皿(さら)の底(そこ)に虫(むし)かくれ居(ゐ)て啜(すゝ)り鳴(な)く
晝(ひる)はさびしく居間(ゐま)にひそみて
鉛筆(えんぴつ)の心(しん)をけづるに疲(つか)れ
夜(よる)は酒場(さけば)の椅子(ゐす)にもたれて
想(おも)ひにひたせる我(わ)が身(み)の上(うへ)こそ悲(かな)しけれ
[やぶちゃん注:大正二(一九一三)年十月十一日附『上毛新聞』に発表された。五行目のルビの「さけば」「ゐす」はママ。草稿は「習作集第九巻(愛憐詩篇ノート)」の巻頭に「一九一三、九 習作集第九卷」という大標題の後に、
*
うすやみ
うすやみに光れる皿あり
皿の底に蟲かくれ居てすゝり泣く
晝はさびしく居間にひそみて
鉛筆の心をけづるに疲れ
夜は酒場の椅子にもたれて
想ひにひたせる我が身の上こそ悲しけれ
*
とある。]
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