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2022/02/18

毛利梅園「梅園介譜」 蛤蚌類 紅葉貝(モミジガイ) / トゲモミジガイ(表・裏二図)

 

[やぶちゃん注:底本の国立国会図書館デジタルコレクションのここからトリミングした。左上部と中部上部に「淺利貝」のキャプションが食い込んでいるため、マスキングした。]

 

Momijigai

 

紅葉貝(もみぢがい) 

 

表・脊

 

裏・腹

 

壬辰(みづのえたつ)蠟月廿三日、寫す。

 

「松𫝍介品」、

    海燕【「をにひとで」。兵庫津(ひやうごのつ)。】

      【「白ひとで」。】

      【「たこのまくら」。】

      【「てぐさり」。敦賀。】

 

[やぶちゃん字注:「𫝍」は「岡」の異体字。なお、冒頭の「紅葉貝(もみぢがい)」の左下には、明らかに漢字二字と下方にカタカナが書かれてあるが、意図的に消されてあり、判読は出来ない。梅園自身が書き込んだが、後に異名として誤りであることが判り、紙片を当てて擦り消したものと思われる。

 

[やぶちゃん注:これは、無論、貝類ではなく、名前と形状及び背側(反口側)の色彩から、

棘皮動物門ヒトデ綱アカヒトデ上目モミジガイ目モミジガイ科モミジガイ属トゲモミジガイ Astropecten polyacanthus

と同定してよいと思う。全体に同種にしてはスリムで、棘(とげ)が上手く描かれていないのは、これが乾燥標本で、棘が体表に接触してしまっているか、或いは、大方、先頭部が欠け落ちているからであろうと推察する。当該ウィキによれば、漢字表記は「棘紅葉貝」で、『輻長約』七~十センチメートル』で、『褐色』から『黒色』を呈する。言わずもがなであるが、『「カイ」と名付けられているが、ヒトデ』(ヒトデ綱 Asteroidea)『の仲間である』。『日本では中部(房総半島・相模湾)以南のごく浅い砂浜や干潟、潮下帯などに広く生息』し、『インド洋、西太平洋などにも分布する。通常は砂や泥の中に棲み、夜明けや夕方などの薄暗い時間帯に活動する』。『反口側(背側)と口側の双方に多くの棘を持ち、通常』、『反口側は暗褐色で、口側は白』から『黄土色』を呈するが、『個体により』、『色と形に大きな差がある。よく似た種にモミジガイ』Astropecten scoparius 『があるが、モミジガイには反口側の棘がない。見かけからは想像しにくいが、水中での移動速度はかなり速く、先端に吸盤を持たない管足で砂を蹴るようにして歩く。体内にはフグ毒と同じテトロドトキシン』(tetrodotoxinTTX:嫌気性菌のプロテオバクテリア門Proteobacteriaガンマプロテオバクテリア綱Gammaproteobacteriaビブリオ目 Vibrionalesビブリオ科ビブリオ属 Vibrioや、グラム陰性好気性桿菌のガンマプロテオバクテリア綱シュードモナス目Pseudomonadalesシュードモナス科シュードモナス属Pseudomonas などの一部の真正細菌によって生産される猛毒のアルカロイド。解毒剤はない)『を含有しており、食すると』、『中毒を起こすため』、『注意』が必要である(☜重要!)。また、『表皮に』腹足綱前鰓亜綱翼舌目ハナゴウナ超科ハナゴウナ科ウニヤドリニナ属トゲモミジヒトデヤドリニナ Vitreobalcis astropectenicola 『が寄生することが多い』(嘗て私が観察した個体でも、大抵、寄生されていた)。

「壬辰(みづのえたつ)蠟月廿三日」天保三年十二月二十三日。グレゴリオ暦一八三三年二月十二日。天保三年には閏十一月があり、陽暦との差が激しい。

「松𫝍介品」松岡玄達著の貝類解説書(最後に一部の奇品種の図が附される)「怡顏齋介品」(いがんさいかいひん:現代仮名遣)全二巻。板行は宝暦八(一七五八)年。著者の序は元文五(一七四〇)年。画期的な同類書として知られる本邦で最初に板行された「貝盡浦の錦」よりも完成は早い。蛤類二十九種・螺類十四種・和品七十二種・蟹類十八種・蝦類十一種の他、本種のような雑種十三種が掲載されてある。参照したTerumichi Kimura氏の貝類サイト「@TKS」の「貝の和名と貝書」の同書の解説によれば、『主として実地の見聞に基づいて編まれており、書中』四十『余種の新出項目を有し』、「貝盡浦の錦」と『ともに我が国貝類学上』、『多大の衝動を与えたものである』とある。この本は、いつか電子化注したいと思っているのだが、早稲田大学図書館「古典総合データベース」の原本の下PDF一括版)の13コマ目から14コマ目にかけての「海燕」を視認して、電子化する。漢文部は訓読し、カタカナはひらがなに代えた。句読点・濁点を添え、一部に歴史的仮名遣で推定される読みを添えた。

   *

海燕(かいえん)【海盤車(かいばんしや)を附す。】 ○達、按ずるに、「海燕」、俗に、「章魚(たこのまくら)」と云ふ。越前敦賀・若狹小濵にて、「手ぐさり」と云ふ。形、楓葉(かいて)[やぶちゃん注:「かえでの葉」に同じ。]に似たり。圓(まどか)にして輕-虛(かる)く、㣲--毛ある者は「海盤車」なり。是(これ)を俗に「盲亀(めくらがめ)の浮木(うきき)」と云ふ。尼﨑、海濵沙地(すなぢ)に多し。甚だ腥臭(なまぐさ)し。其の曝(ざ)れたものは、外皮、及び、毛、脫(と)れ、して、鮫(さめ)の如く、文(もん)あり。其の脚、折れて、形、圓(まどか)なり。生(せい)なる寸(とき)[やぶちゃん注:「時」の略字。]は五色の紋采(いろどり)あり。相馬(さうま)にて、「人手(ひとで)」と云ふ。圓(まどか)なるを、「圓𫝶(ゑん)ひと手(で)」[やぶちゃん注:「𫝶」は「座」の異体字。]と云ふ。

   *

なお、附図があり(かなり稚拙で、がっくりくるので覚悟されたい)、「海燕」は30コマ目左丁の下段(「海㷼」とある「㷼」は「燕」の異体字)で、これは、あまりに惨いが、それでも近縁種を探すなら、本種以北に棲息するモミジガイ目イバラヒトデ科Cheiraster 属ホソトゲイバラヒトデ Cheiraster (Christopheraster) oxyacanthus が近いか。また、「海盤車」は、それより手前の27コマ目の左丁の左最上段にある。これも子ども描いたイラストみたようだが、感じとしてはクモヒトデの仲間で千メートルほどの深海底に棲息する、棘皮動物門クモヒトデ(蛇尾)綱カワクモヒトデ(革蛇尾)目テヅルモヅル亜目テヅルモヅル科オキノテヅルモヅルGorgonocephalus eucnemis に似ているように思われるものである。オキノテヅルモヅルについては私の栗本丹洲「栗氏千蟲譜」巻九がお薦めなのだが、携帯で手軽に見られたい向きには、私の『博物学古記録翻刻訳注 ■17 橘崑崙「北越奇談」の「卷之三」に現われたる珊瑚及び擬珊瑚状生物』がよい。画像だけでいいという怠惰お方には、ほら! これだ! 但し、この奇体な奴の成体は深海性でそうそう見つかるものではない。松岡が見たのは、形から見ると、テヅルモヅル科Gorgonocephalinae 亜科 Astroboa 属サメハダテヅルモヅル Astroboa arctos あたりか。さても。しかし、これらは、孰れもモミジガイとは凡そ異なったヒトデやクモヒトデであって、凡そこのトゲモミジガイの異名とするべきものではない。梅園は本書の本文の「形、楓葉(かいて)に似たり」の部分だけを見て、ろくにちゃんと本文を読んでいないし、図譜も見ていないことが、またしても――バレた――のだ。こういう書誌情報の不正確にして安易な引用転用が梅園の最大最悪の弱点なのである。

「海燕」中国では、知られたヒトデ綱アカヒトデ目イトマキヒトデ科イトマキヒトデ属イトマキヒトデ Patiria pectinifera の乾燥品を漢方薬として「海燕」の名で使うようだ。五放射の体制を持つヒトデ類は広く、鳥のツバメの形に比され、本草書では、よく使われる。

「をにひとで」全身の棘からの異名であろう。現代では、珊瑚食いの嫌われもので、棘の毒も強い厄介なヒトデ綱アカヒトデ目オニヒトデ科オニヒトデ属オニヒトデ Acanthaster planci の標準和名である。

「兵庫津(ひやうごのつ)」現在の兵庫県神戸港の母胎となった中世から近世にかけての港津(こうしん)。古代の大輪田泊(おおわだのとまり)の後身で、中世には「兵庫関」「兵庫島」などとも呼ばれ、東大寺領の「兵庫北関」、興福寺領の「兵庫南関」があった。前者では、瀬戸内沿岸各地からの上船から関銭を徴収し、東大寺ではこれを諸堂宇の修造費用に充てていた。東大寺の室町時代の関所経営は概ね請け負い制であったが,文安二(一四四五)年に直営となり、その年の「兵庫北関入船納帳」が伝存する。この納帳からは十五世紀の瀬戸内経済圏の状況が詳細に読み取ることが出来、室町時代の流通史研究の基本史料とされている(以上は平凡社「マイペディア」に拠った)。

「白ひとで」モミジガイ類のヒトデは、裏(口側)が口吻部を除いて白っぽいので腑に落ちる異名ではある。よくお世話になる鈴木雅大氏のサイト「生きもの好きの語る自然誌」の「モミジガイ」(モミジガイ属モミジガイ Astropecten scoparius )のページの三枚目の写真を見られたい。

「たこのまくら」これも目に入ったものを当てずっぽで附した感じがする誤りだ。ご存知の通り、現在は棘皮動物門ウニ綱タコノマクラ目タコノマクラ科タコノマクラ属タコノマクラ Clypeaster japonicus の正式な標準和名であり、だいたいがだ! 梅園! この形でどうして蛸の枕たり得るかを考えみろ! 迂闊者が! これはだな、先に出したイトマキヒトデの異名なんだよ! 益軒の「大和本草卷之十四 水蟲 蟲之上 海燕」で、ちゃんと、も見てるはずなのに! ダメだ、こりゃ!!!

「てぐさり」「手鎖り」であろうが、これは「怡顏齋介品」の図の通りで、テヅルモヅル系にして初めて有効となる異名であり、棘だらけだからと言っても、「手鎖り」には見えない。]

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